TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。
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デフォルト名:黄有紀(こう ゆき)
恒例の勉強の日。
絳攸と顔を合わせた途端に有紀はふわりと笑みを浮かべると、絳攸の手を取った。
予想外の有紀の行動に不思議そうな顔をする絳攸を素通りして、有紀は百合へと視線を向けた。
「百合さま、今日はお散歩してきてもいいですか?」
「散歩?」
「お散歩かあ、天気もいいものね。私も行きたいわ」
仕事があって行けないから、二人で楽しんで行ってらっしゃい。という百合の笑顔により絳攸の返答に構わず二人は散歩に出掛けることになった。
道を歩く隣の有紀を見ながら絳攸は突然の散歩にも関わらず、不満を言うことなく歩いていた。
この幼馴染みとも言える友人はこうした突発的な行動はいつものことである。しかし、年下のこの友人は絳攸に色々なことを教えてくれる。
ご機嫌な有紀の隣を少し大きな包みを抱えながら歩く。
「今日はどうしたんだ?」
「んー」
手を背中で組んだまま空を見上げて歩く有紀が転ばないか気にしていた絳攸は、有紀につられて空を見上げた。
冬があけたばかりで、外はまだ少し寒い。だが、真冬の格好をしなくても外出できる程度の寒さではある。
天気がいいといっても、真っ青な空とは言えない空模様でもある。
「最近、お仕事でお帰りが遅いから、春が来たんですよって教えて差し上げようと思って」
「『春が、来た』って?」
有紀は深く頷くと足を止めて、道の脇を目指して歩き始めた。
その後ろを慌ててついて行くと、有紀はすぐに足を止めて屈む。それにつれて屈むと目前に黄色の花を差し出された。
「ほら、菜の花」
「なのはな?」
「本当はふきのとうを探したいんだけど、怒られてしまうからまずは菜の花」
二本だけ手に立ち上がった有紀は絳攸に一本を差し出す。反射的に受け取った絳攸は、不意に黎深と百合の顔が思い浮かんだ。
「……俺も春を届けてさしあげたいな」
「それなら、次は川だね」
「川?」
首を傾げる絳攸に有紀は楽しげに笑うと、「出発!」と掛け声をかけて菜の花片手に走り出した。絳攸も慌てて追い掛けて、走り出した。
川辺に着くと絳攸に菜の花を持って貰うと、躊躇うことなく地面に膝をついてなにかを探し始める。
有紀とは異なり、地面に服がつかないように気を付ける絳攸は有紀指先が探すなにかを目でたどる。よく分からないままに探し終わった時に渡そうと手拭いを手に握りしめて。
「今度は何を探してるんだ?」
「うん」
尋ねるも生返事しか返ってこないことに呆れるでもなく絳攸はじっと眺める。
「まだ早いのかなぁ……。あっ、あった」
そっと摘み取った茶色い茎のようなものを絳攸の前に差し出す。手にはほんの数本の同じもの。
見覚えがあるようなないものに首をかしげながら受け取ると有紀に手拭いを渡す。
渡されたものにきょとんとする有紀だったが、はにかむと手を拭う。膝を軽く叩きながら絳攸に手渡したものの説明を始める。
「土筆っていうの」
「つくし?」
「そう。春の七草で、卵で和えるのが好きなの」
けれど、卵であえて食べるほどは摘み取っていない。そんな疑問が目に浮かんでいたのか、絳攸の目を見るなり有紀は川原を見渡す。
「小さい子が遊びのついでに取りに来るみたいだから、私達は少しだけ」
「……そうだな。食材探しじゃなくて、『春を探しに来た』のだし」
「うん。次行こっか」
空模様も怪しくなったし、と有紀が空を指差すと絳攸もちらりと空を見上げてこくりと頷いた。
幾ばくも歩かないうちに吹く風が冷たくなってきた。
腕をさする有紀の肩にどこから取り出したのか肩布をふわりと掛ける。
驚いた有紀が絳攸を振り返ると、絳攸は何も被らずに平然とした顔で歩いていた。先程までわきに抱えていた荷物がないことから、今取り出した物をずっと持っていたことが伺える。
「ありがとう」
「どういたしまして。……風があったかくなったが、太陽が隠れると少し寒いだろ?」
「そっか……。風があたたかいからもう春だって思ってたけど、忘れてた」
そうだろうと思った、といいながら笑う絳攸は不意に慌てて空を見上げ。
「走るぞ」
「え?」
つられて見上げた空の雲行きが怪しいことと、ぽつりと顔に当たる雫に気付くと絳攸に片手を取られて走り出した。
近くにあった大木の下に入ると、有紀は手持ちの風呂敷を草の上に敷いて絳攸と共に腰を下ろす。そのまま手拭いを絳攸に手渡す。
有紀は絳攸が渡してくれた肩布で雨を凌いだが絳攸は若干雨に降られてしまった。
「……すぐに止むといいね」
「すぐに止むと思う」
「あ、空の向こうは明るいんだ」
指差す先は雲の切れ目が見える。濡れた髪と肩をぬぐっていた絳攸はふと思い出したように、空を見上げて、小さく笑った。
声で絳攸が笑ったのが聞こえた有紀は不思議そうに絳攸を振り返る。
「いや、これは持って帰ることは出来ないけど『春』を知らせてくれるものだなって」
「雨が?」
「ああ。季節の変わり目は雨や雷が多いと何かで読んだんだ」
「言われてみれば……。そうかも。流石、絳攸だね」
ふわりとした笑みと共に受けた称賛に絳攸はついと目をそらすと恥ずかしげに雨雲を見上げた。
ずぶ濡れで帰宅した二人に百合は過剰な心配と説教を贈ったのはまた別の話である。
***
久遠双樹さまから頂いたリクエストで、青空の下での二人で春を探しにです。
少し違ってしまったかもしれませんが、ほのぼのしていただければ。
[5回]
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※被災地が大変な中、サイトの更新は自粛すべきかと思ったのですが、悲しく暗い中でなにか楽しいお話を提供できればと思い、ほのぼのとしたお話を中心に小ネタ日記にアップしていきたいと思います。
いつも皆様のあたたかい感想で元気を頂いておりますので、今度は私があたたかい気持ちを提供できれば。
ただあまりパソコンに触る時間がないので、一度小ネタ日記でアップさせていただいて、時間があるときにサイトで正式公開という少し特殊な形にさせていただきます。
リクエスト承りますので、サイトの拍手よりどうぞ
※小ネタ日記の拍手ですとコメント内容にすぐに気づくことができないため、サイトの日記の拍手もしくはサイト内拍手よりお願い申し上げます。
※リクエスト内容について
ジャンルは、小ネタ日記で取り扱いのあるものならなんでも。
お相手や、話の傾向など。
少し具体的に指定していただいても構いません。
リクエストされる方のお名前と、デフォルト名のご希望があればそれもご記入ください。
[3回]
デフォルト名:朔夜
朔夜は、人の目を忍んで橿原宮を抜け出すのを得意としていた。
それは朔夜がまだ子供であり、大人の目につきにくい道を多少知っていることが要因の一つであった。そして、王家に身を列ね次代の審神者(さにわ)としての教育を受けてはいるが、まだ年若い子供。直系の一ノ姫とは違い、行動が逐一見られている訳ではない。
だからこそ、時間を見つけては橿原宮を抜け出しては近隣の村を見て回ったり、祠を周り祷りを捧げている。
そんなある日。
人が忘れてしまったような祠に訪れていた朔夜は人の気配に振り返った先に見たことのある姿に驚き目を瞬いた。
「あなたは常世の将軍様でいらっしゃいますか?」
「はい。あなたは……」
朔夜は正式な礼を彼へと送った。
「中つ国王族に連なります春、と申します。ムドガラ将軍、とお会いできて光栄です」
「ああ、貴女が春ノ姫ですか。お噂はかねがね。私こそ光栄です。このような林の中おひとりで何をなさっておいでで?」
顔をあげた朔夜は先程まで祷りを捧げていた祠を振り返った。
ムドガラは装飾も簡素で、人が最近詣でた気配のしない祠に驚いたようだった。
「……神に祈っておりました。常世に御座す黒き龍神に、鎮まって頂けるように」
「っ?! 黒き神をご存じで」
常世を蝕む闇とも呼べる存在。常世でも知らぬものが多い中、中つ国の小さな姫が知っていることに心底驚いているムドガラに朔夜は悲しみに目を伏せた。
「嘆き、悲しみを抱く神。嘆きが憎しみに変わってしまったのは悲しいことです。……私は黒き神に直接祈れないので、他の神に」
「このように寂れた祠にも神が?」
人気のない林の中にある、小さな寂れた祠。
辺りを見渡すムドガラに朔夜はふわりとした笑みを浮かべ、祠を見やる。
「神はもともと人々が希ったから神となったのです。いつしか人々は神の名を呼ぶのをやめてしまった。けれど、人の子を気にかけて下さる神はこうして祠で長い時を待ってくださる。……私だけの祈りでは黒き神には届きませんが、それでも人々を気にかけている神は応えてくださいます。……ですが、難しいだろうと、だけ」
「そうですか……。春ノ姫は、皇にお会いしたことはありますかな」
「スーリヤ様ですか?ご子息のナーサティア様とは何度かお話をしたことはありますが…」
首を横に振る朔夜にムドガラは優しい色を宿した微笑を浮かべ、膝を折った。
「我が主に姫のお話をしても?」
「ならば、将軍にもお話していただかなくては」
「どのような……?」
強張るムドガラとは対照的に、朔夜は楽しそうに彼の腕を取って歩き出す。
「常世には豊蘆原にはない植物があると炎雷様にお聞きしました。将軍がご存じのお花を教えていただきたいわ」
**
ムドガラとは普通に会話していた朔夜を書きたかったのですが、なんとも消化不良。
[0回]
デフォルト名:朔夜
星空を見上げる度に、あの日を思い出す。流れる星を見ては目を細めて微笑んだ君の横顔。
その日、忍人は緊張に身を強張らせていた。
葛城の一族の中から、中つ国の四道将軍、岩長姫の弟子入りを認められ、一人で橿原に来た。
猛者揃い、年上ばかりと聞いていた為、故郷では突出しすぎて周囲との関係を拗らせないようにと強く念押しされたのもあるかもしれない。
実際には、猛者というよりは曲者揃いであったが。
その時のことを決して忘れはしない、と忍人は強く思う。
「風早、岩長姫はいらっしゃいますか?」
からかいに肩を怒らせていた忍人の後ろから涼やかな声が聞こえた。
鈴を転がしたような声と称するに値するのだとさえ感じた。
何故そのような声を岩長姫の在所側で聞くのかと驚く忍人とは対照的に、風早は穏やかな笑みを浮かべて席を立った。同時に羽張彦や柊も笑みを浮かべて席を立った。
かつかつと足音が響き、忍人を追い抜いた。
忍人からは、漆黒の髪を結い上げた後ろ姿のみが見えた。装飾は控えめだが、無頓着な忍人でも分かるほど高価な装いであった。
「ああ、今日はお客様が多い日ですね。師匠は少し出掛けています」
「少しすれば帰ってきますよ、姫様」
「こちらにかけてお待ちください姫君」
柊は芝居がかった動作で訪問者の手を取ると自らの席へと案内した。椅子に腰かける動作すら忍人は貴人に見えた。
葛城の族(うから)にこのように些細な動作で気品に満ちた人は多くはいない。
年のころは同じだろうか。
長い漆黒の髪を涼やかに結い上げ、小さな顔には珍しい色の瞳があった。
同世代の娘と顔を付き合わせることが少ない忍人は、彼女の正面から若干視線を外した。
そんな忍人の様子など気にすることのない娘は、忍人を見て首を傾げた。
「ありがとう、柊。あら、そちらは? 新しいお弟子さん?」
「姫、彼は」
風早の説明を遮ると彼女はふわりと微笑みを浮かべた。その微笑に、どきりと胸が高なった。
「分かったわ。葛城のご子息でしょう? 母上がおしゃっていたわ。とても優秀な方だと伺いました」
「おや、姫君。よくお分かりになりましたね。彼は葛城忍人。葛城の族の者です。詳細はご存じのようですし割愛させていただいても?」
柊の簡単な説明で納得したのか、彼女は小さく頷いただけであった。
どうやら風早や柊、羽張彦とは顔見知りのようであったその娘から視線を外せず、しかし直視できない忍人は彼女に目礼のみを返した。そして風早ののんびりとした説明に目を見開いた。
「忍人、こちらの姫君は春ノ姫様です。日嗣の宮である一ノ姫様の従姉妹で、次代の審神者の君候補でもある。多分君と年も変わらないと思うよ」
「っそのような姫君が何故っ?! ……葛城忍人です。春ノ姫様」
慌てて膝をおると彼女は静かに椅子から降りると、忍人の肩をそっと触った。
肩に触れる手の小ささに忍人は胸に熱い何かが灯ったのを感じた。
「よろしくね、忍人殿。宮には同じ年の子供は采女と下男しかいないから仲良くしてもらえると嬉しいわ。……頭をあげてもらえると嬉しいわ」
「ですが……」
「此処は岩長姫の在所。それに私的な訪問ですもの。私は、必要以外にへりくだられるのは嫌いです」
「春ノ姫はこうと決めたら曲げないからな。一ノ姫そっくりだ」
困惑する忍人を他所に、羽張彦が呵呵と笑い声をあげるのにつられて顔をあげると、春ノ姫の顔が目の前にあり驚く。
春ノ姫は忍人の驚いた顔を見て、ふわりと目を細めて微笑む。
その笑みが、名の通り春のようで忍人は思わず見とれてしまった。
そんな二人の間の空気を壊すように風早がのんびりと声をあげた。
「で、今日はどうされましたか?」
「岩長姫に狭井君からの言付けを預かってきているの」
聞いているのかいないのか、風早は頷くといそいそと茶の準備を始め、柊は再び椅子を進め、羽張彦は茶器を並べ始めていた。
彼女の用事の相手である岩長姫を呼びに行きもしない兄弟子達に忍人は目を吊り上げた。
「岩長姫に姫君がいらしていることを伝えなくてもいいのですか?」
だが答えたのは、三人の兄弟子ではなく来客であるはずの彼女であった。
「あら、呼びに行かれたら私が困ってしまうわ」
意味が理解できない忍人に分かるように風早がお茶を入れる片手間に付け足す。
「狭井君への言付けというのは、朔夜姫への外出許可と同じ意味なんですよ」
「息抜きってことだな。今日は一ノ姫は?」
淹れられた茶器を受け取りながら春ノ姫は羽張彦の質問に即答した。
「ニノ姫と龍神様についての講釈をお聞きよ。私は、狭井君からお聞きしているから免除かしら」
「ああ。なら抜け出した訳ではないのですね」
「いやだわ、風早。抜け出すなら一ノ姫も二ノ姫も一緒よ?」
「そうだ、風早。理解が足りなかったな」
目を白黒とさせる忍人に気づいた柊が口を開くが、説明になっていないことには変わりがなかった。
「姫君方は非常に仲がよろしいんですよ、忍人」
**
移り往く季節を君との昔話です。
よく抜け出していて、忍人とは幼馴染みのような。
忍人視点だとすごく美化されている不思議。
描写する100のお題(追憶の苑)
[2回]
※アニメ十八話より
連載では書けないのでこちらで。
眞里は力が抜けそうになる身体を叱咤し、槍を振るった。
「我は武田が兵(もののふ)が一人、立花眞里なるぞ!! 我こそはと思わん者よ、尋常に勝負せよ!!!」
たとえ相手が物言わぬ化け物であっても、述べる口上は変えるつもりはなかった。
迸る熱気を刀身に乗せ、戦極ドライブを発動した。
鳥羽伏見の戦いに敗れた幕府軍に従い、新選組は江戸へと舞い戻った。
その後、朝廷を味方につけた薩長軍に追いつめられる幕府軍に代わり新選組は甲陽鎮撫隊と名を改め甲府城を守護に向かった。
しかし甲府城は既に官軍の手にあり、新選組は圧倒的不利で奪還に臨んだ。けれど新政府軍は羅刹を多く従え、新選組を出迎えた。
新政府軍の羅刹隊は新選組の羅刹隊と異なり、陽の下でも夜間の場合と遜色ない働きをした。即ちそれは、首を落とすか心の臓を貫かなければ倒れぬ不死身の軍隊であった。
既に鳥羽伏見の戦いで多くの隊士を亡くし、新たに募った隊士は稚児にも等しく。
惨敗を期し、撤退した。
その後、永倉及び原田が離隊し、新選組は旧幕府軍が抵抗を続ける会津へと向かった。
会津へ向かう途中、宇都宮城攻略戦前に、精供隊にて進行していた永倉と原田と再会した眞里は、翌日の宇都宮城攻略戦に参加した後、一人離隊し江戸へと戻った。
『新政府軍の羅刹隊の吸血行動のため、惨殺が起こるかもしれない』
そんな話を原田に聞いた為であった。
宇都宮城攻略には原田の姿は無く、彼はその話を眞里にだけに話すと一人江戸へと戻ったようだった。
自分が持つ槍や刀は羅刹に効果があることを知っていた眞里は、原田やおそらくその場に居るであろう不知火の助太刀に戻ったのだった。
多勢に無勢というべき状況に、眞里は久しぶりに戦場の迸りを覚えた。
陽は落ち月明かりの下、羅刹隊と対峙する不知火と原田の姿を見つけると、眞里は羅刹の中に切り込んでいった。
「誰だ?!」
「助太刀致します……!」
「てめ、立花か?!」
「眞里、お前っなんで来た!!」
羅刹の胸を貫き、刀で首を落とし原田と不知火の間に飛び込む。驚愕を露わにする二人に一瞥することなく、油断なく構える。
「私の刀と槍は羅刹に有効です」
「土方さんと行ったんじゃ……!」
「……江戸は、千鶴の故郷。蹂躙を許すわけにもいきません!」
ぴたりと槍を綱道へと向ける。彼は苦虫を噛み潰したような顔で眞里を見ていた。
「貴方のその行いは千鶴を悲しませる。……私の士道に悖る行いは許さない。……いざ、推して参る!」
綱道への道を塞ぐ羅刹を無情に切り捨てる。返り血で手が滑りそうになるのを確と握りしめる。
理性を感情を無くした彼らは、どんな気持ちでいるかは知らない。望んで羅刹になったのか、羅刹にさせられたかも知らない。知りたくもない。
眞里に出来ることは、殺戮によって彼らを眠りにつかせることだけ。
だから、眞里は槍と刀を振るう。
「は、ハハハ……! このままでは済まさんぞ!!!」
おぞましいほど居た羅刹の数も減り、視野も拓けていた。だからこそ気づけた眞里はそれを目にして瞠目した。そしてそのまま無意識のまま身体が動いた。
疲労から動きが鈍っていた原田の背後、倒れていた羅刹が月夜に光る何かを手に微かに動いていた。
「左之助殿……!!!!」
気付けば、呼ぶことを躊躇っていた筈の彼の名を呼び飛び出していた。
眞里の声に振り返った琥珀色の瞳が驚愕に見開かれ、次の瞬間悲壮に染まったのを見て眞里は腹部を激痛が走ったのを確認し、同時に懐刀を投げつけた。
「っ眞里ーーっ!!」
じわりじわりと染み出す赤を片手で抑えながら、槍を払う。眞里の腹部から滲み出る血に反応する羅刹を凪払うと、がくりと膝が地に着いた。
こみ上げてくる血を吐き捨てて、腹部に巻けそうな布を引きちぎる。
冷静に巻いていく手を誰かの手が上から止めた。
「貸せっ! 俺がやる!」
「原田、早くしやがれ!! 爺が逃げやがるぜ!」
見上げると、原田が顔を歪めて眞里の止血を行っていた。
その苦しみに歪められた顔を見て、ああ無事だったのかと心から安堵して眞里は微笑んだ。
しかし原田はその笑みを見て焦りに手の力を込めて布を巻いていく。
「無事、でしたか。左之助どの」
「ああ……っ、お前はここで待ってろ」
「嫌です」
「いいから言うことを聞きやがれ! 血が止まらねぇんだよ!!」
琥珀色が怒りと焦りに揺れるのを見て眞里は、やはり安堵しか浮かばなかった。
布を巻き終え、眞里の肩を強く掴む原田の手に手を重ねると、眞里は原田の肩に額をついた。
「左之助殿」
「っなんだ」
「……お慕いしております」
囁くような、状況に合わない穏やかな声で場違いなことを告げた眞里の言葉に原田の体が固まる。
その間にするりと腕をすり抜けて、眞里は静かに立ち上がり不知火に追い詰められている綱道へと詰め寄る。
「っ眞里!!」
「綱道、覚悟!!」
綱道が苦し紛れに放った砲弾が爆発し、辺りが煙にまかれたのを見たのを最後に眞里の意識は途絶えた。
目を開けたとき、最初に目に映ったのは木目が粗く、汚れが目立つ天井板だった。
指先はぴくりとも動かず、身体には重石でも乗っているかのような圧力を感じていた。思考もぼうっとしたまま働こうとする意欲が沸き起こらない。
だが、鈍った頭で考えるのは意識を失う直前のことだった。
無我夢中だった。
がむしゃらに槍を刀を振るったのは久方ぶりで、どうなってもいいという想いを抱いたのも久方ぶりだった。
そう、どうなってもよかった。
眞里は鈍った頭で想う。
自分は異なる時代を生きる者。
町の女子のような生き方は知っていても出来ない。
普通の町娘が願う幸福の夢と、彼が抱く幸福の夢は同じでも自分が抱く幸福の夢は違う。
自分では彼が願う幸福を叶えることは出来ない。だから、彼が願う幸福の為に身を使うのに躊躇はなかった。
躊躇はなかったというのに。
再び木目の天井を見ているということは。
「私は……また死に損なったのか」
敬する主君の元に行ければ、と願わなかったと言えば嘘になる。
呟きを耳が拾い、その響きに安堵が滲んでいることに眞里自身が驚いていた。
「……お前は、死んでも良かったって言いてえのか」
がらりと襖が開き、聞き慣れた声が落ちる。
掠れている声の中に潜む怒りに眞里は疑問を抱く。
なぜ彼が怒っているのか分からない。
そう思っている間に彼はドスドスと畳を踏み、眞里の枕元に腰を下ろす。ついで何かを置く音が響き、水音がした。
ひたり、と額に触れた冷たい感触に目を細める。
「気分はどうだ」
「……身体が重いです」
「当たり前だ。四日間眠ったままだったからな。……なあ、眞里」
「はい」
「何故、俺を庇った」
「…………」
強張った声に考え込む。
なぜ庇ったのか。それは無意識でもあった。だが、眞里の行動は眞里にとっては当然のもの。
無言の返答に答えを見たのか原田は苛立たしげに髪をかきむしると荒々しい息を吐いた。そして、眞里の名を呼んだ。
原田を見上げようと顔の向きを変える眞里の片手を取ると、きつく握りしめてその手を口元へと寄せた。強張るのを感じ取りながら拒否を許さない力強さで眞里の手を握り締める。
「眞里、お前は言ったよな」
「……何を、ですか」
「俺の夢を叶えるのに、助力するって言ったよな。……覚えてるか」
掠れかけた荒い声に、京に居た頃を思い出す。
『惚れた女と所帯を持つのが夢』だと照れくさそうに笑う原田の話に、微力ながら助力すると答えた。
京の娘との仲を取り持つのに、新選組の仕事で手伝えるものがあれば手伝い、時間を作るのを助力すると、そう言った意味で言ったつもりだった。
「ええ、覚えています」
「……なら、あのときの約束を今果たしてくれ」
「……今、ですか」
「ああ」
ちくりと胸が痛む。
彼は好い人が出来たのか。
だが、助力すると誓ったのは眞里だ。誓った約束は違えない、それが眞里の誠である。
こくりと小さく頷くと、原田は眞里の手を放し、眞里の両肩を掴んだ。
「原田殿……?」
彼の綱道の意味が分からず、動きをじっと見つめる。
整った顔が真剣な眼差しで近付き、目前に琥珀の瞳が見えたと思った次の瞬間、原田の目が伏せられ、唇に唇が重ねられた。
驚きに目を見開き、身体が硬直している間に、原田は少し距離を離し、琥珀の瞳に眞里を映した。彼の顔は熱を孕み、しかし苦しげに歪められていた。互いの息がかかる距離に知らないうちに息を殺していた。
「俺の夢を叶えるには、お前がいないと駄目なんだよ。……頼むから、俺の夢を叶えると言ったお前が、違えるな。……もう、無茶だけはヤメろ」
肩に押しつけられた、彼の悲痛な叫びに、眞里は思考を止めた。
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つ、続きません。
最初は、原田さんを救済!!
みたいなノリで書き始めたら、逆に眞里が死んでしまい、境目で、と試行錯誤したらこんな感じに。
書き逃げ!!
[11回]