TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。
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デフォルト名:井上那智
約束してください。
あたしを残して居なくならないと。
残される悲しみはもう味わいたくない。だから、約束してください。
「いやぁぁぁ!!」
気づくと、なにもかも覚えていないのに暗闇にいた。
「何をしている!」
肩に触れた温もりに安堵して意識が暗転した。
「お、目ぇ覚めたか。色々話を聞きてぇんだがいいか?」
「はい」
「お前さん、名は?」
「名は………。え、あれ……?名前……。此処はどこ?……あたしは……?」
「お前さん、記憶が……?」
「何で……?あたし、何で此処にいるの?」
「とりあえず、じゃあ俺の名前を教えとくか。俺は、永倉新八。新八って呼んでくれ」
「はい、新八さん……」
「よし。とりあえずな、昨晩お前が浪士に襲われているときに俺らが保護した。そのとき、傍に落ちてた荷物は此処にある。……あけても良いか?」
「私のかわからないけど、それでもいいなら」
「よし。……なんか変なものばかりだな。お前の身なりも見慣れねーしな」
「これ?……変なの?」
「そうだな。異国の奴らが着てそうだな」
「あれ、これ……。生徒手帳?」
「お、何だ。字読めるんだな。すげーよ」
「え?普通読める……普通?」
「なになに、井上那智、○×市立○×高等学校三学年。住所、愛知県○×市……。ま、よくわからんが、この絵姿もお前だから、名前は井上那智! 年は17! ってことだな」
「井上那智……」
「んじゃ那智、ここは新選組ってとこなんだけどな。えらい奴らがお前と話がしたいらしいんだ。会ってくれねぇか?」
「あ、はい」
「井上那智、か」
「記憶がないらしいんだ。んでこのちっせえのの中にこいつのふぉとがらひーと名前とかあったから、名前と年だけ分かったんだ」
「……トシ」
「ああ」
訳も分からぬまま新選組という場所で預かるということになり、毎日ちまちまと働くことになった。
着物の着方や、庖厨の使い方。覚えていないのに料理もしっかり作れて、覚えればしっかりと女中として働く様になれた。
次第にふとした瞬間に記憶を思い出していく。だが、その場にいることが心地よくて見ない振りをした。
「な、なあ那智! きょ、今日は暇か?」
「はい。今日はお買い物をしたら暇ですよ」
「な、ならって……買い物か? なにをだよ」
「味噌とお醤油です」
「おいおい一人で持つつもりか? 誰か誘ってんのか?」
「は、えと…。玄関までに誰かと会って、時間がありそうな人だったら頼もうかなって」
「おい、誰にも会わなかったらどうするつもりだったんだ」
「え、一旦帰ればいいかなって」
「はあ、ほら。行くぞ」
「え? でも新八さん、何か用事があったんじゃないんですか?」
「いや、お前が暇だったら散歩に誘おうと思ってただけだ。だから気にすんな」
「はい、ありがとうございます」
時代は移り変わり新選組は瓦解していく。そんな中、那智は身の振り方を考える。
「なあ、俺と一緒にきてくれねぇか」
「新八さん、また書いているんですか?」
「おう、あいつらのこと。覚えている内にたくさん書いてやりてえんだ」
「……あ、なに私のこと書いてるんですか!」
「あ? 別にいいだろう? おまえだって新選組を支えてくれてたんだからよ」
「いいんです。私は新八さん達が覚えていてくれれば。そもそも女人禁制なのに私や千鶴ちゃんがいたらまずいですよ」
「あー、まあそれもそうだな」
**
新八つぁんで書くならこの子だと思います。
トリップ、記憶喪失。ありがちですが
[2回]
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※「あなたがくれた物語」のIF小話です。
SSにもならないただの会話集のようなお話です。
SSLのような、……。とりあえず、転生ネタでもあります。
ノーマルルートで、千鶴以外は全員亡くなったところから話は始まります。
デフォルト名:立花眞里
瞼を閉じれば今も思い浮かぶ。
赤い旗に武田菱。真田六文銭。にぎやかな日々。たくさんの武将達。
幼なじみ。駆け抜けた戦場。
笑顔の師。
浅葱にだんだらの羽織。優しすぎる最後の武士達。誠の旗。
命を懸けて、賭したもの。
今なら、川の向こうで語り合えるだろう。自分一人が長いこと渡らずに違う世界でまた武士として生きた。自分の生きる道を探して、足掻いて足掻いて。
最後にたどり着いた、自分の生き様。
今なら友達(ともら)に誇って語ることができる。
「眞里ー! 待ちわびたぞ!」
「眞里!! よう帰ってきた!!」
「お嬢! 俺様待ちくたびれたぜ」
「よく言うな。幸村様と散々好き勝手していたではないか」
「うわ、それ言っちゃう?」
「幸村、御館様、佐助、才蔵……! 私、たくさんの武士の心を持った者達と出会ったんですよ」
「うむ、よう頑張ったのう眞里。お主の話を聞かせてくれるか」
「はい……!」
「眞里!!待ちわびたぞ!」
「ほんとだぜお嬢。俺様へとへと」
「Hey! それ相応の覚悟はできてんだろうな、Girl?」
「いや、弁解はしない。すまなかった。相手校は?」
「薄桜校でござるよ」
「うちとは違って品のある高名だよね~」
「Ha!!どっちにしろ骨のある奴らがいるといいけどな。Let's go」
「ふーん、君たちが僕たちの相手?」
「……どのような相手であろうとも全力で迎え撃つのが礼儀」
「そうそう」
「あ、あの! あの人達の傍にいるのって」
「ああ、剣道女子優勝者の立花眞里だろう」
「あれ、土方さん知ってたのか?」
「まあな。武田道場とはちと縁があってな……これで、ようやく俺らも揃ったな」
「はい!!」
「……千鶴」
「どうしたでござるか、眞里。な、道場に女子が……!は、はれんちでぅぅごぁ!!何をするか佐助ぃ!」
「お嬢、知り合い?」
「Hey!Cute girlじゃねえか」
「ああ、……私のもう一つの繋がりだよ。千鶴!!」
「眞里さん!!!」
「千鶴、会えて嬉しいよ。私の仲間を紹介したいんだ」
「はい!!私も、紹介したいです」
「眞里ぉぉ!!破廉恥でござるぅぅぅぅ!!」
「こら旦那!!お嬢の感動の再会に水をささないの!!」
「Hey!Girl、What's your name?」
「雪村千鶴です」
「な、それがしと同じ名とは!御館様ぁぁ!!それがし、どのようにすれば……!」
「千鶴……、後でゆっくり話そう」
「え、はい!」
「幸村ぁぁあ!!」
「ふぐぅぅ!眞里、良き拳でござるな!」
「ああもうお嬢!大将に似ないでよマジで!!」
「……すげー迫力。眞里ってあんなに熱い奴だったんだな」
「ま、武田道場っつったら暑苦しい集まりらしいからな。それに元々あいつは熱い奴だよ」
「おい、俺が主将の伊達政宗だ。馬鹿共がうるせぇが大目に見てやって欲しい」
「ま、見てておもしろいからいいけどね」
「止めなくていいのか」
「猿がいるからいいんだよ」
「猿?」
「いい加減にしなさいっての!!余所で殴り合いしたら、相手に迷惑でしょうが!!お嬢、才蔵にいいつけるよ!!旦那、大将じゃなくて大殿にもいいつけるよ!!?」
「わ、悪かった!だから才蔵だけはやめてくれ!!」
「す、すまぬ佐助。其達が悪かった!!」
「才蔵?」
「猿の腐れ縁だ。眞里はあいつにどやされるのがどうも一番利くからな。ま、予定はこんなもんでいいか」
「ああ、楽しみにしている」
「こっちもだぜ。おい、てめぇら!!とっとと帰るぞ!!」
「ま、政宗殿…!!私は残っても良いか?」
「Han?何言ってやがんだてめぇ」
「まーまー、伊達の旦那。お嬢もたまには普通の女の子と話したいって」
「かすが殿もおなごであろう」
「あいつは女のカテゴリー外だから。お嬢、帰るときは連絡してね。俺様と才蔵。分かった?」
「別に一人でも帰れ」
「分かった?」
「……メールします」
「はい、約束ねぇ。破ったら……」
「分かった!!破らない!!一人でも帰らない!」
「過保護だなぁ」
「才蔵は過保護すぎるんです。佐助と組まれると誰も逆らえないんですよ」
「眞里さん、お元気でしたか?」
「ああ、千鶴は?返事をきかなくても分かるけど」
「君も元気そうだね。全国制覇おめでとう」
「ありがとう、沖田殿」
「楽しかった」
「送ってくぞ?武田道場なら知ってるしな」
「いえ、送ってもらったなんて知ったら才蔵に何を言われるか……。あ、才蔵だ」
「……過保護だな」
「うん、今から帰るよ。え?もう着いた?どこに?」
「此処にだ」
「うわ、驚いたな。よく分かったね」
「佐助に聞いたからな。もう遅い、春重殿と成実も心配している」
「……全く、過保護ばかりだな」
「眞里さん」
「今度武田道場に遊びにおいで、私も近藤殿の道場に遊びに行きたいから」
「はい!!」
「……なんか男ばっかりだな」
「ま、しょうがねぇだろうよ。前の記憶があるにしろないにしろ、向こうでは紅一点なんだろうし」
「今の時代でも心配なんだろ」
**
突発的に、現代パラレルで記憶有りだったら?→バサラキャラとも交流!!
収集がつかなくなりそうだったのでこんな感じのネタで終わりました
[17回]
デフォルト名:古河朱里(ふるかわあかり)
重く弾む音が響く。バスケットボールが跳ね返る音は独特で、静かな体育館の中でとても目立つ。
音に合わせて足跡も響く。バスケットシューズで走る音も、独特である。
二つの音が複雑なリズムで絡まり合い、やがて途絶える。
独特なシュート音と、跳ねるボールの音。シューズの音は途絶えたまま。
朱里はこの独特な空間が好きである。双子もかくやとばかりに共に育った幼なじみとは切っても切れぬ関係のバスケットボール。
再び響くボールの跳ねる音にシューズが走る音。
朱里は鞄を体育館の入り口に置くと、中をのぞき込む。
黒髪の背の高い男子がドリブルでコートを横切り遠くのラインからシュートを決めた。
綺麗な軌跡を描いてゴールに吸い込まれる。
「ナイッシュー!!」
思わず掛け声をかけると中に居たものが気づいたのか朱里を振り返った。
整った顔立ちをしているが、表情が薄いためにクールといって騒がれている幼なじみ、流川楓は朱里を見ると挑戦的に目を細めた。
「終わったのか」
「うん。楓は?」
今は自主練で残っているのだろう。もう終わるのか、まだ残るのか。そう言った意味での問い掛けに流川はボールを朱里にパスした。
受け取り損ねて床に落としてしまい慌てて拾うと「へたくそ」と声を投げられる。そのまま床にボールを置くと靴を脱いで体育館に上がり込む。
むっとしつつも事実なので、朱里は何度かボールを弾ませると、ゴールを目指して投げる。
元々流川と違って運動神経というものに縁がない朱里はボールコントロール力も皆無であり、いわゆるノーコンである。
シュートを狙って投げたとしてもあらぬ方向に飛んでいく。
「リバウンドー」
「どあほう!」
見当違いの方向に飛んだボールを見事キャッチした流川はゴールめがけて高く飛び上がり、ゴールへとボールを叩きつけた。
「おお、すごいすごい! ダンクだ!」
「……どあほう」
リングにぶら下がっていた流川は軽い動作で飛び降りると、飛び跳ねて手を叩いて喜ぶ朱里の額を指で弾く。弾かれた額を抑えながらも朱里はへらりと笑って流川を見上げる。
「かっこいいねー、さっすが楓」
「さっきのリバウンドは使い方がちげぇぞ。いい加減覚えろ」
「だって難しいから無理!」
にへらと笑う朱里に流川は諦めたように溜息をつくと、ボールを拾いにのんびりと歩いていった。その背中が、自主練は終わる。と言っていた為に朱里は隅に立てかけてあったモップを手に床を磨き始める。
モップ片手に鼻歌で歌うのは、本日の部活でさらった曲である。
元々はジャズグループの曲を吹奏楽アレンジした曲で、アップテンポでフレーズも面白いとなかなか人気の曲で、朱里が所属する楽団でもついに譜面が配られた。
世間の例に漏れず、朱里も虜になっていた。
「新しいやつか?」
「うん。今日初合奏だったんだよ」
モップをかけていると反対側から流川がモップをかけていた。言葉もなく二人でモップをかけ続け、最後までかけ終わると流川が朱里からモップを受け取りそのまま片づけに向かう。
その背中を見送り、朱里は体育館の戸締まりを行う。
最後の鍵をかけると、制服に着替え終えた流川がその鍵を抜き取り校舎へと歩いていく。事務室に届けに行くその背中を見送ると待つことなく一人自転車置き場に向かう。一台の鍵を開けると朱里は籠に鞄を放り込み、身長にそぐわない自転車を押していく。
校門にたどり着くと、既に流川が待っていて、朱里は無言で自転車のハンドルを渡す。流川が頷きと共に自転車に腰掛けると、慣れたように後ろに座り流川の肩を掴む。
「楓号、しゅっぱーつ!」
「どあほう、誰が楓号だ」
頭突きを繰り出すと、流川は勢いよく自転車を漕ぎ出す。その後ろで、頭突きされた箇所を痛そうに抑えながら、朱里は楽しそうに微笑んでいた。
「楓、月曜日小テストだからね」
「……聞いてねー」
「範囲まとめといたからやっとくんだよ」
「……分かった」
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幼なじみ設定の子です。
例によって吹奏楽部ですが。
[1回]
虹の向こうに
デフォルト名:春日綾音
013:死に近き
触れても冷たい手。優しい音色を奏でる指先も寂しくなるくらい冷たい。
握った手をまじまじと触る綾音に彼は居心地が悪そうだった。
紫水晶を嵌め込んだ様な双眸はいつも哀しげに揺れていて、だから綾音は彼の瞳が優しく揺れる瞬間が好きだ。
彼は、自分は理に反する者で存在してはいけないと言うが、綾音はそうは思わない。彼ほど優しい人はいないし、哀しい人はいない。
「ね、敦盛さん。ほら、見て」
「ああ……」
「虹、きれいだね」
「にじ……? そうか、綾音殿の世ではそう呼ぶのだな。にじ……」
「敦盛さん?」
「とても美しいが、儚く消えていく。跡を濁さずに、見る者を幸福にして。その去り際はとても潔い」
虹を見上げる紫苑の瞳が優しく翳るのを見て、綾音は心が痛む。
潔く消えたいと願うのは彼自身。綾音は引き留めることも適わず、彼の願いに答えられるのは姉だけである。
傍にいたいと願った人は、傍に居られない人で。
自分の居場所はここにはないのだと、思わされる。あの場所にもここにもない。ならばどこに行けばいいのかわからない。
けれど、
「その……綾音殿」
「なーに、敦盛さん」
「もっと、近くに行ってみるのは如何だろうか……?」
不安な色をちらつかせながら、それでも優しく揺れるこの人を最期まで見ていたいから。
差し出された手に手を重ねて、彼と歩いていく。虹が綺麗に見られる場所へと。
「やっぱりここに居たいよ」
「何か、言っただろうか?」
「ううん」
**
虹の向こうには基本綾音→←敦盛です。
遙か3は→←が大好きです。明烏も曙未→←景時で、ヒノエのお話も、将臣も基本コレ。
将臣は悲恋なんですけどね。設定だけ組んであります。
描写する100のお題(追憶の苑)
[0回]
遙か3×ゴーストハントの主人公
デフォルト名:天河華織
翌日、夏目がその場所へ行くと昨日出会った少女が妖と戯れていた。
木陰の隙間から覗くその様子はどこか神秘的で、神に愛されてあるというニャンコ先生の言葉をほんのり理解した気がした。
「あ、」
ふっと目を細めて眺めていると気づいたらしい彼女が振り返る。彼女は淡く微笑むと木陰に夏目を誘う。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「私は天河華織」
「……夏目、貴志です」
ふわりと笑うと華織は貴志君、と名前を呼んだ。そのほほえみが直視できなくて夏目は目をさまよわせる。
「今日は猫さんいないんだね」
「ああ、……先生は用事があって」
実は物陰から観察しているのだが。華織はそうなんだ、とクスクスと笑うと草陰へと目を向けた。
「じゃあもう用事は終わったの?」
「え?」
『やはりバレておったか』
「先生?!」
茂みから招き猫の如くずんぐりとした猫が出てくる。
『小娘、何者だ』
「ただの小娘ですよ」
『ふん、ただの小娘にしては嫌な気配を持って居るがな』
そんなことを言いながらも猫は素直に華織に抱き上げられている。何がなんだか分からなくなった夏目は華織をまじまじと眺める。
「私も貴方も見鬼の才持ちの仲間、と言ったところかな。持ちうる能力は正反対だけど」
夏目は困惑しながら華織が勧めるベンチに腰掛けた。華織も隣に腰を下ろしてぽつりぽつりと話し始める。
「見鬼、というのは異形のものを見る力を指す言葉だと聞いたの。だから私たちのような力もそう呼ぶのだと思う」
「何故、俺が見えると……?」
華織は忘れていたと言わんばかりに目を瞬いた。
「ごめんなさい、泊まった旅館にたくさん弱い妖が居て話しかけたら貴方の話を聞いたの」
夏目の顔からサッと血の気が引いた。
近隣の妖は大体が友人帳の存在を知っている。そう易々とは話さないと思いたいが、妖は口が軽い。
ぐっとズボンを握ると彼女はふわりと微笑んだ。
「やっぱり貴志君は優しいね」
「え……?」
「私だったら会うのが怖いからお縋りしてなかったものにしてしまうから。だから彼らの大切なものをきちんと返す貴志君は優しい。名は短くも強力な呪。取られたものは命懸けで取り返しに来る。だから私はそんな業は背負えない」
優しくて、強いよ。そう微笑む華織の顔を見ていられなくて夏目は俯いた。その震えそうな肩を華織はそっと擦る。
馬鹿なことだ。馬鹿なことだと言われながらも意固地のように、友人帳の名前を返し続けていた。見える同士にも話せない友人帳を知ってしまった初対面の華織は、夏目の行いを否定しない。
「貴志君に少しあげるね」
そう言って華織は匂い袋と数枚の札を差し出した。戸惑いながら受け取った。仄かに香り立つ甘い香りに頬に朱が差す。
「お守りと護符。何もかもを弾くんじゃなくて、悪意を弾くから好意の妖気には反応しないから安心して」
『ほう。お前が作ったのか』
「そんなの頂けないです!」
「貴志君は、自分の身を守る術はある?」
的確な指摘に言葉が詰まる。
貴志の武器はニャンコ先生と気合いの拳のみである。
「私は、術も使えるから自分を守れるし、退けることも滅することもできる。でも貴志君は守る術はない、もし万が一があったら悲しむのは周りの人だから」
脳裏に藤原夫妻や学校の友人達の姿が浮かぶ。
「作るのは簡単だからあげる。私には最強の切り札があるから」
顔を上げると華織は八枚の札を手にしていた。それを見た瞬間にニャンコ先生はギョッとして華織の膝から飛び降りた。
『なんちゅー物騒なもん持ってんだ!!』
「やっぱり分かる?」
「おい、先生」
『夏目、こいつはこれがある限り上級妖怪にも襲われん。ありがたく貰っとけ』
よくわからないままに受け取る。匂い袋はできれば首から下げておいてね、と言われ見てみれば首から下げられるほど紐が長かった。
「私はね、四神の札を持ってるの」
「四神?」
「そう。青龍、朱雀、白虎、玄武って聞いたことないかな。その四体の神様から貰った札」
『残りは明神か』
「そう」
「……なんかスケールが大きくてよく分からなくなってきた」
『ふん、夏目は馬鹿だからな』
「とりあえずこれ以上ないほど強い札があるから心配するなということですよね」
華織は頷いた。そのまま折り畳まれた紙を夏目に差し出す。
受け取り開くと、丁寧な字で住所や電話番号が書いてあった。
「これは……」
「私の家の住所。札が無くなったら連絡して? 新しいのあげるから」
「どうして……」
初対面なのに。
言葉にならないものを感じ取った華織は俯く夏目の頭をそっと撫でる。その感触は塔子が夏目の頭を撫でるのに似ていた。
「私は、祖父母が、師匠に会えたから脅えることなく過ごせた。だから今度は私が誰かを助ける番だと思うの」
受けた恩は返さないとね、笑う華織の瞳は澄んでいて夏目は何もいえない。
「そんなに気になるなら、遊びに来て」
「遊びに?」
「そう。私ね、友達少ないの。だから遠方から遊びに来てくれる友達が居るって知れば祖父母も安心するから」
「安心……」
藤原夫妻は夏目が友人を連れて帰るととても喜ぶ。それと同じ感覚だろうか。
「華織さん」
「うん?」
「……いつになるか分からないけど、」
「うん」
言葉を続けた夏目のその返事に華織は満面の笑みを浮かべた。
「嬢ちゃんの実家ってマジで神社だったんだな」
「だーかーらー、そう言ったでしょ?」
渋谷SPRの面々は華織の家に来ていた。
当初、バイトが終わった麻衣が滝川の誘いを断り華織の家に行くことを告げると、面白がったその場にいた者がついてきてだけだったのだが。
面白がった滝川や松崎が林やナルを巻き込んだだけである。
「……で、麻衣は何故天河さんの家に用事があったんだ」
「要さんに勉強見て貰う約束してるの。華織さんお客さんが来るから無理だから代わりに見てくれるって」
優しいよねー。とのほほんとしながら神社に圧倒される面々を気にすることなく中に踏み込んでいく。
「こんばんは!」
インターフォンがないためか元気よく扉を開けた麻衣はそのまま固まってしまう。後ろにいたSPRの者達は麻衣の後ろから中を覗き込み、やはり麻衣同様に固まる。
固まられた相手、夏目貴志は困ったように後ろを振り返る。
「すみません華織さん、お客さんがいらっしゃったんですけど……」
「あれ? 麻衣ちゃん? 要ー? 麻衣ちゃん来たよー」
呼ばれた華織の弟、要はひょっこりと玄関を覗き込み、ふむ。と考え込む。
「今日の夕飯は大人数だな。いっそ譲でも召喚するか?」
「そうすると漏れなく将臣と望美がついてくるけど……。まあいいか。林さん、お夕飯食べて行かれます?」
返事はないが、まあ作ってしまえと華織は片手間で携帯を使用して幼なじみを呼び出す。
そのとき、困ったように華織を見てくる夏目と麻衣に気づき、華織は携帯を閉じると麻衣を手招きした。
「麻衣ちゃん、こっちが私の九州の友達の夏目貴志君。貴志君、この子は私の友達の谷山麻衣ちゃん。二人とも同じ年だから仲良くしてね」
麻衣は驚きに目を見張りながらもすぐに笑みを浮かべて手を差し出す。
「よろしくね、夏目君!」
「あ、ああ。よろしく……」
「んじゃあ、ついでだ。三人でやろうぜ。譲が来たら呼んでくれ」
「りょーかい」
要の後を素直についていく麻衣と夏目を見送ると、華織は残った面々に顔を向ける。
「良かったらあがってください」
***
夏休みに遊びに来たらしい。
気力が切れたので続きません(笑)
[2回]