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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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薄桜鬼 マシンガントークな彼女

デフォルト名:明智直実(あけち なおみ)

現代トリップ主




 私は明智直実。現在19歳の大学二年生である。早生まれのため、12月現在まだ未成年である。
 ちなみに大学の専攻は法律である。よく何学部と聞かれ、法学部だと応えるとなにやら尊敬のような変人を見るような何とも形容しがたい眼差しで「へぇ、すごいね」と言われるが、私自身は何もすごくない。

 法律という分野でいろいろな論争を行うことの出来る頭の良い人々がたくさんいて、たくさんの学派や本があるから学問が成り立つわけであり、私が法学部というものに入ったのもたいそうな理由があるわけではない。
 中には法律の専門家、いわゆる弁護士や裁判官、検察官になるのだといって信じられない量の勉強をしている立派な学生もいる。しかしてそれらは一部の学生のみであるという私の認識は間違っていない筈である。
 ではその他大勢は何なのかと問われれば、『夢がない学生』というのが端的に表しているといえる。中には夢がありそのために選んだ学生もいるかもしれない。彼らに対しては失礼な発言だと重々承知しているため深く謝罪しよう。
 私はどちらかといえば中間である。長く社会人として働く意欲があるので、そういった方面に就職が有利な大学と学部を選んだらこの大学の法学部だったのみのこと。

 ところで法学部というからには学ぶべきは法律であり、多くの人は好みが分かれるだろうといえる。
 あるものは憲法が得意であり、刑法が得意であり、また苦手でもある。
 ちなみに私は刑法と憲法が苦手である。何故か。
 固く、融通が利かず、また訴訟判決を読んでも納得できずやはり堅いからである。
 しかしてこれらがなければ日本国民の人権も平穏も勝ち取れない。
 しかし、苦手な私でもきちんと覚えている条文もある。


「刑法第199条、人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。更に、日本国憲法第31条、何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。よって私は司法官の発する礼状を持たないあなた方に生殺与奪権を握られる覚えはありません」

 人を殺してはいけません。なんて、モラルの薄まってきた現代でも怪しくなってきているが、当たり前のことである。さらに銃刀法というのがあり、たとえ鋏であろうと何だろうと刃渡り何センチ以上は持ち歩いたらだめなはず。っていうか彼らが腰に下げているのは日本刀。列記として刃物だ。
 銃刀法とは申請すれば、家にある分にはいいが振り回すのはもってのほかだ。なんなら私が通報してもいい。

 と、とりあえず謂われのない身体拘束とちらつく殺害宣言に学校で習った知識を分かりやすくかつ簡潔に説明してみた。


 ちなみに私と昨夜知り合った袴の少女は手を縛られ、畳に正座でやたら美形な男の集団に睨まれている。

「だいたい甘いんですよ。証拠残したくないなら目撃者はその場で口封じが定石。翌朝には物言わぬ目撃者が近所のマダムに発見されて数時間後には警察登場で現場封鎖。駆けつけたマスコミが、通り魔やら不審死やらで騒ぎ立てる。それで終わりの筈。私もかくや親元離れて一人寂しい下宿暮らし。マスコミのいい的。で、何でわざわざ連れてきたんですか?」

 まあ、私も問答無用であの世に生きたくなどない。大学に通うため借りた奨学金は返済しなければ見ず知らずの後輩達の迷惑になるし、まだ親孝行もできていない。
 旅行したかった場所は全然行けていないし、買ったばかりの本もまだ読んでいない。何より、今目の前にある六法はラインも何も引かれていないのだ。
 なけなしのお金で買った六法。前まで貰い物を使っていたため古かったためか、民法が読みづらくて仕方なかった。口語体というのだろうか、そういった書き方がされる前の六法だったのだ。
 ようやくなけなしのバイト代で読みやすい民法収録の六法を買ったのだ。珍しく自習でもしようと思い、大学に行こうとおんぼろアパートの階段を降りていたら一段踏み外し、意識を失い気づいたら隣にいる彼女に声をかけられやたら時代劇を思い浮かべる町並みを走っていた。

「で、あなたがたはいったい誰ですか?」
「……手前ぇが言ってることはさっぱり理解できんが、ここは新選組の屯所だ」
「――Pardon?」

 今、なんて言った?

「ここは壬生、新選組の屯所だっつったんだ」
「新選組って……幕末から明治初期に活躍した組織で、歴代大河ドラマの題材になったり、いろんな作家が題材にしたっていう? ――何の冗談? 新手の詐欺?」

 しかし彼らの顔は冗談でもなんでもなく、怖いほど真剣であった。

 とりあえず、現状把握である。

「幕末の出来事……。黒船来航?」
「十年ぐれぇ前だな」
「ってことは1863年前後……? 桜田門外の変」
「それは三年前だ」
「……ってことは文久……」
「文久3年だ」

 なんてことだ。記憶が正しければ私は2009年の12月に階段を踏み外した筈なので、146年ほど時を駆けてしまったことになる。そのような題名のアニメやら映画やら流行っていたような……。

「さっきから何が言いてぇ」
「まあ、信じてもらえないと思いますが、私146年ほど未来の日本から来てしまったようです。ちなみに年号は平成21年。この時代の天皇陛下から、4代後の方です。はい、こちらでよかったら参照して下さい」

 取り上げられて目の前に置かれていた六法をパラパラとめくって一番後ろのページを開いて、平成21年10月発刊を指差す。ちなみに平成21年発刊だが、題名は平成22年度版である。
 労働法の分野も新しい法律が出たのも買い換えた決め手である。以前のは契約法が載っていなかった。

 とりあえず、何故か目の前のみなさんは六法の字の細かさとか印刷技術とかに驚いていたりする。

 平穏で平凡な人生設計をしていた筈の、わたくし明智直実。

 ちまたで人気のタイムトリップ中です。

 無事帰れますように、天国の祖父にお祈りしておきます。



***

なんていうノリ。薄桜鬼が全く生かされていない導入編。

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薄桜鬼12

デフォルト名:立花眞里




 盆に乗せた茶器一式が揺らがないように、足音を立てながら廊下を歩く。足音を立てる理由はただ一つ。――保身の為である。
 現時点で眞里も千鶴も新選組の『知られたくない何か』の端を知っている状態である。
 根が素直すぎる千鶴は気づいていないだろうが、今ある情報だけでも繋ぎ合わせれば『知られたくない何か』の端から中心へと近づけてしまう。そんな予感がする。
 血に狂う隊士。それを粛正に出ていた平隊士ではなく幹部達。数回だけ訪れていたという雪村綱道。消息を絶った雪村綱道の捜索。

 知られたくない血に狂ってしまった隊士達。躍起になって探す綱道の行方。おそらくこの二つは必ず繋がっている。

「(まあ、ありがちなのは……)」

 蘭方医というのがそれらを結びつける。
 しかし思い至っても誰にも話す気はない。彼らもそれを望んでいないのだろう。現に土方は、眞里が感づいていることに気付きながら何も言及してこない。
 問い質せば、何らかの処分をしなければならないから。それは、土方の本意ではないのだろう。

 仏頂面でいても世話焼きで、鬼畜になりきれない優しすぎる『鬼の副長』の渋面を思いだし、眞里はくすりと笑った。

 一週間も経たないというのに眞里がお茶を淹れても何も言わない。むしろ顔をつきあわせれば淹れてこいとも言われた。余程信用されたか泳がせているのか。

 足を留めて、静かに膝をつく。
 眞里が近づく前に室内から声は止んでいる。

「近藤殿、井上殿。立花です」
「おお、眞里君か。入ってくれ」
「失礼します」

 静かに襖を開き、中に入る。既に話も終えたのか、近藤と井上が柔和な笑みを浮かべて眞里を迎えた。




 部屋の前の縁側に腰掛けて眞里は月夜を見上げる。月は、この場所からでも自分の覚えのある月と変わらない。
 隣に正座する千鶴と違い、眞里は男のように片膝を立てて座っていた。
 端から見れば男女の語らいのようであるが、残念ながら双方ともに女である。

 眞里が立ち去った後の広間でのやりとりを聞きながら眞里は沈んだ様子の千鶴の頭を自分の肩にそっとかき寄せる。軽く頭を撫でられると続きを促されたのを分かったのか千鶴は甘えた仕草で続けた。

「分かってるんです。私は所詮新選組のお客さんで、あの人達との間には大きな壁があるって」
「……そうだね。でもその壁は彼らの優しさから出来ている。他の者達を決して巻き込まないためにね」

 千鶴が眞里を見上げる。その視線に気づきながらも眞里は月を見上げる視線は外さない。
 月明かりに見上げた眞里の横顔は千鶴の知らない人のようで、不安に思い彼女の着物の端を軽く握る。

「千鶴が憎くて黙っている訳ではないよ。……私たちがここにいる理由も彼らの優しさからだ。……知れば否応無しに巻き込まれる。知る必要が来たら、そのときがくれば必然的に知ることになる筈。だから、そのときまでは彼らの優しさに甘えておきなさい」

 ようやく千鶴を見た眞里は、千鶴が見慣れた優しい笑みを浮かべていた。父性の様な、けれど幼い頃に亡くした母が持っていたであろう大らかな微笑みを。

「はい、母様」

 照れた笑みを誤魔化すように言った言葉に眞里は、目を瞬き次いで千鶴の髪を無造作にかき混ぜた。

「確かに、あのままもしかしたら母御になっていたかもしれないけどこんなに大きな娘は持てないなぁ。……ああ、でも誰かの側室だったらあったかな?」

 誰に嫁ぐか等は全く予定になかったが、候補の一人は既に正妻も嫡子もいた。真面目な眞里の応えに千鶴は顔をひきつらせて若干力を込めて眞里を揺さぶる。

「じょ、冗談だったのに大真面目で返さないで下さい!!」
「ふふ、悪かった。さて、湯の時間が来るまで軽い運動をしていてもいいかな、斉藤殿?」

 千鶴の頭をまたも撫でると、静かな動作で立ち上がり、傍らに置いてあった槍と刀を手に取る。立ち上がり際に廊下を振り返ると驚いた千鶴もあわてて振り返った。

「えっ!? 斉藤さん?」

 眞里の視線の先を辿った先には、闇に染まった廊下に溶け込むように斉藤一が腰を下ろしていた。名を呼ばれたからか一歩ずつ足を踏み出し、月明かりの下千鶴のそばに再び腰を下ろすと感情の読めない瞳で眞里を見上げ、小さく頷いた。

「俺もあんたのそれに興味がある」

 それ、とは刀と槍を共に振るうことだろうか。見られても特に困るものでもないために、斉藤の探るような視線を気にせずに中庭へと足を下ろす。

 無造作に構えて深く息を吸う。吐くのに合わせて目を閉じれば、居ないはずの手合わせの相手が目前に現れる。
 左の槍を回転させ防御の型を取りながらも、右の刀で攻めの体制を取る。

『いざ、参る!!』

 幻の幸村相手に口角がつり上がった。



 目を閉じているのに体勢を崩すことなく、槍や刀を体の一部のように振るう眞里の姿に千鶴は見入っていた。
 楽もなく、ただ月明かりのみの舞台での舞のようで。
 手に持たれるのは、飾り紐でも鈴でも、扇でもない真剣。幾人もの人を屠った凶器。それでも今は月明かりに煌めく神聖な神器の一つ。

「きれい……」
「いくら鍛えているとはいえ立花は女人。その身でああも軽々しく槍と刀を振るわれてしまえば、我々の立つ瀬もないな」

 妬みともとれなくもない発言だが、眞里へのそれは賛辞である。眞里の生い立ちを何となくではあるが知っている千鶴は何気なしに頷くこともできてしまう。
 生きた時代が違い、世界も違う。それは仕方のないことではあるが、眞里にとって今の斉藤の言葉は元の時代でも賛辞であろう。

「まるで舞を見ているようで、誰かと試合をしているようですね」
「熟練者の動きは無駄がない。舞に見えるのはそれだけ成熟しているからだろう。……だが、振りが大きいのは巡察には向かないな」
「確か、室内は室内の戦い方があるって仰ってましたよ」

 何処ぞの城を落とした時は、壁の至る所に侵入者対策の仕掛けがあり苦労した、と苦笑い混じりに全国行脚の話を聞いた時を思い出す。
 緑の人の顔のような野菜を取りに、異国の宗教家が牛耳る城に侵入したときの話だったろうか。

 味の感想だけは幾ら聞いても教えてもらえなかった。



 眞里の独り舞台は藤堂が湯の使用許可を告げに来るまで続いた。


***


幸村が『紅蓮の二槍使い』なら眞里は何だろう?
槍と刀という中途半端な仕様にしたのは私だけれど。
武田主従が炎なので、ストッパー的意味合いで属性は氷です。
とりあえず、彼らからの呼ばれ方に迷いが……。
沖田と斉藤と同じ歳。ということにしているので、そのうち呼び捨て……になるかなぁ?でも沖田からの呼び方にちゃん付け?さん付け?とりあえずは試行錯誤で。

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薄桜鬼11

デフォルト名:立花眞里



 夕餉の膳が並んだ部屋で、二人の男は苛立たしげに襖を見ていた。
 そんな様子を見て眞里はくすりと笑うが、音で気づいたのか原田が眉尻を下げて眞里へと顔を向ける。

「笑うなって眞里。こっちはマジで腹減ってんだって」
「分かってますよ。足音もしますし、もう来たみたいですから」

 空腹に鳴る腹を隠さずに目が据わっている永倉は、眞里の言葉に襖を鋭く睨みつける。
 原田も再び襖へ目をやった時、大きく襖が開けられてようやく藤堂達が姿を見せた。

「遅ぇよ」
「す、すみません。私がモタモタしていたせいで」

 原田の低い一言に千鶴が慌てて頭を下げるが、他の遅れてきた男は原田と永倉の恨みの籠もった視線を受け流して自分の席についた。

「おめぇら遅えんだよ。この俺の腹の高鳴り、どうしてくれんだ?」
「新八っつぁん、それってただ腹が鳴ってるだけだろ? 困るよねえ、こういう単純な人」
「おまえらが来るまで食い始めるのを待っててやった、オレ様の寛大な腹に感謝しやがれ!」

 永倉の隣に藤堂、永倉と原田の間に千鶴が腰を下ろす。反対側では、藤堂の向かいに沖田、斉藤、眞里の順で並んでいた。

「新八、それ言うなら寛大な心だろ……。まあ、いつものように自分の飯は自分で守れよ」

 原田の言葉に、千鶴も眞里も分かったように頷いた。食事中におかずが誰かに奪われることをすでに何度も経験している。
 各が手を合わせ、食前の挨拶をすると同時に戦いの火蓋は切って下ろされた。

 永倉と藤堂のおかずの醜い奪い合いに、既に動じない自分に驚く千鶴は素直に盗られて良いものと良くないものをわけて食べ始めた。

「慣れとは恐ろしいものだな……。このおかず、俺がいただく」

 物静かな斉藤は静かに眞里の膳からおかずを奪っていった。
 眞里も千鶴も黙々と食べ続ける中、眞里は不意に箸を置き静かに席を立つ。そのことに気づいた千鶴は声をかけるが、眞里は櫃の側にあった盆を手に沖田の横に膝を突く。
 盆に乗せられた杯と酒に沖田は嬉しそうに眞里を見る。杯と徳利を手に取る。

「あれ、よく分かったね」
「箸を置かれましたから」
「ありがとう、貰うよ」

 沖田が酒を口にしたのを見て千鶴が首を傾げ、もう食べないのか尋ねると沖田はちらりと永倉を見るとにやにやと笑った。

「うん、あんまり腹一杯に食べると馬鹿になるしね」
「おいおい馬鹿とは聞き捨てならねぇ……。だが、その飯いただく!」

 頬を震わせながらも箸を伸ばす永倉を後目に沖田は酒を楽しみ始める。
 眞里は自分の席に腰を下ろす前に、原田へと盆を差し出す。

「原田殿はどうしますか?」
「ありがとな、んじゃ俺も酒にするかな」

 笑って盆ごと受け取る原田に眞里は軽く会釈すると自分の席へと腰を下ろす。一連の眞里の動作を見ていた千鶴に視線を送った沖田は揶揄を込めて声を弾ませた。

「千鶴ちゃんは、ただ飯とか気が利かないとか気にしないで、おなかいっぱい食べるんだよ」
「……わ、わかってます。少しは気にします!」
「気にしたら負けだ。自分の飯は自分で守れ」

 黙々と食べ続ける斉藤の言葉に小さく頷いた千鶴は、若干永倉に減らされた食事を再開した。
 まだ永倉と藤堂が騒ぎながら食べ続ける為、賑やかな空間が続く。
 次第に綻んでいく千鶴を見て、眞里は安堵したように相好を崩す。
 笑みを浮かべた千鶴を覗き込むと原田は笑みを浮かべる。

「千鶴。最初からそうやって笑ってろ。俺らも、おまえを悪いようにはしないさ」
「原田さん……」

 大勢で食べたことの無かった食事は千鶴に複雑で暖かな気持ちをもたらした。整理をつけるためにそっと胸に手を当てて俯く。
 そんな千鶴を見て、眞里が箸を置いた時だった。

 襖が勢いよく開き、広間に井上が入ってきた。

「ちょっといいかい、皆」

 声は穏やかであったが、浮かべた表情は苦悶であり、目は真剣な光を湛えていた。
 和やかな食事の空気が一瞬で硬く真剣なものへと変化した。
 井上は文を軽く上げと見せると、静かに口を開いた。

「大坂に居る土方さんから手紙が届いたんだが、山南さんが隊務中に重傷を負ったらしい」

 皆、一様に息を呑んだ。
 井上は文にあることを淡々とかいつまんで説明した。
 大坂のとある呉服屋に浪士たちが無理矢理押し入ったところに駆けつけた山南達が浪士を退けたが、その際に手傷を負わされたらしいと。

「それで、山南さんは……!?」
「相当の深手だと手紙に書いてあるけど、傷は左腕とのことだ。権を握るのは難しいが、命に別状は無いらしい」

 重々しい事実に千鶴以外の者は、苛立たしげに目を伏せた。
 しかし、千鶴のみが山南の無事を喜び声を上げる。それに対して、幹部は誰も厳しい顔を崩さない。
 眞里は静かに居住まいを正す。

「数日中には屯所へ帰り着くんじゃないかな。……それじゃ、私は近藤さんと話があるから」
「井上殿」

 背を向けた井上に立ち上がった眞里が声をかける。顔だけで振り返った彼は眞里の言いたいことを理解して、眞里が出られるように襖を開けた。
 二人分の足音が去っていくのを聞きながら、斉藤は重苦しい空気が理解できないで居る千鶴に説明するように口を開く。

「刀は片腕で容易に扱えるものではない。最悪、山南さんは二度と真剣を振るえまい」

 ようやく理解が追いついた千鶴は顔を青ざめさせる。
 命は助かったが、武士としては生きていけなくなった。

「片腕で扱えば、刀の威力は損なわれる。そして、つば迫り合いになれば確実に負ける」
「……はい」

 小さく頷いた千鶴を、沖田が酒を舐めながら鋭い目で一瞥する。

「薬でも何でも使ってもらうしかないですね。山南さんも、納得してくれるんじゃないかなぁ」
「総司。滅多なこと言うもんじゃねぇ。幹部が『新撰組』入りしてどうするんだよ」

 永倉の発言を理解しきれなかった千鶴は首を傾げる。

「山南さんは新選組総長ですよね? 今の永倉さんの言葉だと山南さんが新選組ではないような……」

 千鶴の言葉にようやく彼女がいることを思い出したのか、永倉の肩が強張る。一瞬空気も硬くなるが、藤堂は気づかないまま空に字を書くまねをした。

「普通の新選組は、新しく選ぶ組って書くだろ? 今言った新撰組は、せんの字を手偏にして――」
「平助!!」

 藤堂の言葉は原田に殴り飛ばされた為に続かなかった。
 飛ばされた藤堂は勢いよく壁にぶつかり殴られた頬を押さえる。
 思わず立ち上がりかけた千鶴の肩を押さえた永倉は、疲れたように息を吐くと原田を見上げる。

「やりすぎだぞ、左之。平助も、こいつのことを考えてやってくれ」
「……悪かった」
「いや、今のはオレも悪かったけど……。ったく、左之さんはすぐ手が出るんだからなぁ」

 助け起こす原田と起こされた藤堂のやりとりはあまりにも普段通りで、千鶴は改めて自分は新選組の片隅に身を置いているにすぎないことを実感した。

「千鶴ちゃんよ。今の話は、君に聞かせられるぎりぎりのところだ。これ以上のことは教えられねえんだ。――気になるだろうけど、何も聞かないで欲しい」

 優しい声とは裏腹な鋭く真剣な眼差しで千鶴の頭を撫でる永倉を見上げ、反駁しようと口を開く千鶴を押し止めるように総司が淡々と言葉を継いだ。

「『新撰組』って言うのは、可哀想な子たちのことだよ」

 冷たい声と、酒を舐めながらも向けられた底冷えするくらい瞳に千鶴は言葉を無くして俯く。
 そんな場を取りなすように永倉は笑みを浮かべて千鶴の頭にそっと手を置く。

「おまえは何も気にしなくていいんだって。だから、そんな顔するなよ」
「忘れろ。深く踏み込めば、おまえの生き死ににも関わりかねん」

 斉藤の言葉に千鶴は唇を噛む。
 新選組にとって千鶴や眞里は隊士ではなく、ただの客に過ぎない。客は客でも招かれざる客だ。
 その客は新選組の秘密を知る必要はなく、深く踏み込むことは許されていないし望まれてもいない。
 彼らと千鶴の間に聳える、高く厚く、そして冷たい壁を千鶴は改めて認識したのだった。

「そうそう。知りたがるよりも、眞里ちゃんみたいな気の使い方を覚えなよ」

 重たくなった空気を、無かったかのように笑う沖田の言葉に思い出したように藤堂と永倉は首を傾げた。

「そういや、何しについてったんだ?」
「んなこと考えなくても分かんだろ」
「え、左之さん分かんの?」

 穏やかに酒を飲みだした原田は、局長室のある方角を指で指した。

「源さんが近藤さんに話があるったろ。長い話になるのは目に見えてる」
「あ、お茶!!」

 思い至ったのか千鶴が声を上げると肯定するように斉藤や沖田が頷く。

「淡々と食べているようで周りをよく見てるよね。最初から、いい量のお酒も準備してあったし」
「ああ、ありゃいい女だな。腕っ節も強い、料理もできるし気配り上手とくる」

 楽しげに酒を舐める原田の言葉に、藤堂と永倉は笑いながら同意するが首を横に振る。

「だが、最大の難点があるな」
「そうそう」
「難点……ですか?」

 首を傾げる千鶴の目前に指を突きつけると永倉は真面目を装った顔で言った。

「愛想のなさだ!」
「……愛想のなさ?」
「そう! 生真面目で、いつもキリッとしててさ。隊士の中には、あの真面目さがいい!とか言って眞里さんに陶酔してる奴らもいるけど……。いや、気持ちは分かるけど」
「平助君は、眞里ちゃんにもっと砕けて欲しいんでしょ?」
「……まあ、そうなんだけどさ」
「愛想のよさは千鶴ちゃんの方が格段に上だな!」

 永倉に力任せに頭を撫でられるが、千鶴は笑顔で受ける。
 一緒にいる眞里と自分では屯所内での扱いが違うことは仕方ない。眞里の方が千鶴よりも年齢も上で生きてきた境遇も違う。
 気配りがうまい。原田や沖田の賛辞に悲しみを覚えたが、千鶴もこの一年、よく眞里を羨んだ。しかし、眞里はそうでなければ生きてこれなかったのだと言って千鶴を眩しいものを見るかのようにほほえんでいた。

「だが、千鶴への接し方は愛想のなさの欠片もない」
「それは当たり前です! 私はこの一年、すっごい頑張ったんですからね」

 思わず胸を張ってしまう。
 千鶴と眞里が出会って半年が過ぎるまで、眞里の千鶴への接し方は、今の新選組隊士達への接し方と似たようなものだった。

「眞里さんすっごく頑固だから、今みたいに笑いかけてくれたり、柔らかい口調で、千鶴って呼んで貰えるようになるまで半年以上かかったんですから」
「へぇ、そりゃすげえ頑固だな。ただ、それ以上に千鶴ちゃんが頑固だったってことだろ?」

 原田の楽しげな言葉にも誇らしげに頷く。

 眞里は親しい部下でも敬称を外さなかったということを千鶴は聞いている。幼友達の真田幸村とその配下の真田十勇士以外呼び捨てたことがないと聞き、千鶴は嬉しかったのだ。

「だから皆さんは、眞里さんの標準装備になれて下さいね」

 適当な相づちを打つものや、悔しがる者を後目に見ながら、原田は島原から帰った時に見た眞里の微笑を思い浮かべた。

 朝の約束の通り団子を買って帰ってきた原田は、縁側で眞里の淹れた茶を飲みながらのんびりとしていた。
 そのとき不意に目をやった眞里が、嬉しさと懐かしさ、哀しみとやるせなさが内包した微笑を浮かべながら団子を手に取り、沈み行く陽を眺めているのをみた。

 今朝見た淡い微笑とは違う、感情の孕んだ微笑に、どこかが疼いた。

「……なんだったんろうな」

 辛い酒が、喉を通る際に甘く感じて原田は昼の疼きを忘れた。


***


以外とすんなり書けました。

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薄桜鬼10

デフォルト名:立花眞里


 土間に向かうとすでに数人の隊士が集まっていた。
 皆一様に眞里がくるのを待っていたらしい。眞里が来る以前は自分たちで考えておこなって居た筈の朝餉作りの筈なのだが。
 しかし、十番組は心配しなくともここ数回で手際はよくなっている。

「遅れてしまい申し訳ありません」
「いや、俺らも早く来すぎたな。んじゃ、始めるか」

 赤毛に近い髪を束ね、長身の十番組組長の原田はにかっと笑うと、隊士に始めるように告げた。

 この組と共に作る際の眞里の仕事は、器の準備と味付けの最終確認である。たまにもたつく隊士に助言を与えたり、手本を見せたりするが基本は隊士の自主性を重んじている。
 食事の支度を隊士に仕込む。それが頼まれたことである以上、眞里が全てを取り仕切る訳にもいかないのだ。

「なあ、味噌汁の濃さはこんなんでいいのか?」

 味噌汁を担当していた原田の傍らに行き、味見をする。
 原田や斉藤が一番、安心して味見が出来る為戸惑いなく口に含む。

「大丈夫だと思いますよ。原田殿も味付けが上手くなりましたね」
「そうか? ありかとうな」

 屈託なく笑う原田に眞里は思う。男が料理が上手になったと誉められても複雑だろうに、素直に礼を言う原田は変わっているのだろうが、眞里は接しやすい相手でもある。ごねられると対処に困るからだ。

 朝餉の準備も問題なく進み、隊士が運び出している中茶器の準備と、今日の分の茶菓子を確認する。
 屯所に身を置いて一週間が経過しようとしているが、近藤によくお茶を頼まれるようになっていた。
 茶菓子を買いに行ける身分ではないが、監察方の者に頼めば買い足して貰える。その為、毎朝確認するのが日課である。

「あ、何か欲しいもんあるか?」

 背中から掛けられた声に眞里はざっと茶菓子を見渡す。
 今は金平糖がおいてあり、他にも幾つかの干し菓子がある。

「今のところは大丈夫です」
「いや、そうじゃなくてな」

 笑いが含まれた声に疑問を抱いて振り返ると、原田が優しい笑みを浮かべて眞里を見ていた。言われた意味を理解しかねて首を傾げる。

「まだ外出許可が出てないだろ? 昼から新八と島原に行くからよ、帰りに土産買ってきてやるからさ。何がいい?」
「昼からお酒ですか」
「あ、呆れんなって。たまにはいいだろう。いつか誘ってやるよ」
「いえ、私お酒は……」

 困ったように視線を漂わせると、原田も疑問に思うのか首を傾げる。

「弱いのか?」
「逆ですよ。幼い頃から飲み慣れてますから、お酒には五月蠅いですよ。それにあまり酔わないんです」

 安い酒を毎日飲むよりは、金を貯めていい酒をゆっくり飲みたい。いい酒は、大体が強い。必然的に眞里は酒に強くなっていた。家系もあるのかもしれないが。反対に幸村は大層弱かった。

「んー、まあ酒の話はおいおいな。甘いものは好きか?」
「はい。好きですよ」

 信玄が亡くなる前は、幸村と毎日のように城下で食べ歩いていた。
 幸村のようにたくさんは食べないが、眞里も甘いものは好きだ。
 懐かしい幸せな思い出を思いだし、眞里はふわりと微笑んだ。

 その瞬間土間に居た人間は眞里を見て硬直していた。

 稽古場で難しい顔や真剣な表情はよく見るが、そのほかの表情を浮かべているのはあまり見かけられない。幹部の中に土方や斉藤といったように難しい表情や淡々とした顔を日常からしている人間もいる。
 しかし、眞里は極稀に優しい顔をする。

 筆頭はやはり雪村千鶴と居るときだ。千鶴と話すときは柔らかい表情で、空気も穏やかである。

 隊士の者は、千鶴がいないときに眞里の穏やか様子を見たことがないのだ。

 しかし、今原田と話している最中に優しげな微笑みを浮かべた。原田以外の者には会話は聞こえていなかったが、それでも眞里の微笑は希少価値が高かった。

 原田はくしゃりと笑い、眞里の頭を乱雑に撫でる。

「じゃあ土産に団子でも買ってくるかな。そうしたら茶、煎れてくれるか?」
「はい」

 土産がなくとも、頼まれればいれるのだが。
 久しぶりに甘いものが食べられる、と眞里はその日は機嫌が上向きであった。



 広間に行き、膳の前に座ると千鶴が明るい様子で隣に腰を下ろした。
 朝、部屋を出る前の様子と打って変わった表情に眞里はそっと千鶴の頭に手を置く。

「何かいいことでも?」
「はい! 当てて見て下さい!」

 余程嬉しいことらしい。江戸を出てから久しく見ていなかった千鶴の笑顔に、眞里は肩から力が抜けた。心から安堵したのだ。

「そうだな……」

 迷い、千鶴の様子をじっと眺める。その時、眞里のもう一方の隣に斉藤が腰を下ろした。

「雪村に、何度か稽古をつけたと聞いたが」
「ああ、そうだけど……。分かったよ、千鶴」
「えへへ、分かっちゃいました?」

 やはり嬉しいらしい。少し乱暴に千鶴の頭を撫で、楽しげな千鶴を見ると自然と口元に笑みが浮かぶ。

「斉藤殿に褒めてもらったから?」
「はい、師を誇れと。眞里さんは私の二人目のお師匠様ですからとっても嬉しかったです」

 千鶴が誉められたから、が大きな理由ではあるらしいが、それを通しての眞里への賛辞が嬉しかったらしい。
 千鶴は人のことも我が事の様に嬉しがり、悲しみ、悔しがる。

「千鶴の太刀筋は元々真っ直ぐだった。……私は、私が相手をすることで変な癖がつかないか心配だったけど、斉藤殿がそう仰って下さったということは私の配慮も実を結んだということだね」
「変な癖、ですか?」
「そう。特に私の剣は千鶴とは真逆。そうではないですか? 斉藤殿」

 静かに耳を傾けていた斉藤は肯定も否定もしなかった。しかし、何かを小さく呟く。
 聞き取れなかった眞里は斉藤を振り返る。彼は再び、しかし眞里のみに聞こえるような声で言った。

「どちらも、曇り無いことには変わりない。あんたの剣も、いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐだからな」

 表情が無に近い斉藤は口元のみで笑みを作ると、周りにあわせて食前の合掌をした。
 眞里と千鶴も慌てて合掌する。
 伸びてくる箸を悉く交わしながら自分の食事を負えると、食後の茶を淹れに席を立つ。

 見慣れた背中が小さくなるのを見て千鶴は小さくため息を吐く。
 江戸を出てから続く非日常的な生活。新選組の屯所での生活も始まって一週間経過する。
 行動を制限され、一日中眞里と意図的に離されて、監視され続ける生活。慣れてしまったら終わりな様な気がして、気を張っていたのに、最早これが日常へとすり替わりそうなほど感覚が麻痺していた。

「千鶴」
「あ、はい。ありがとうございます」

 渡された湯飲みを受け取り、眞里へと顔を向けるが、何かを隠されるように強く頭を撫でられる。

 眞里には、今の千鶴の複雑な心の内が見透かされているようで、自分が情けなくもあり、眞里の存在に救われていた。




 夕暮れに染まる部屋で、千鶴はぼんやりと外を眺めていた。
 眞里は、昼の後に稽古に向かいそのまま夕餉の支度に向かったまま帰ってきていない。
 千鶴が部屋からあまり出られないのと反対に、眞里が屯所内を歩き回る。否、部屋に居られないようになっているため、眞里と千鶴が話をする時間ができるのは、早朝か、夕餉の後のみである。

 広くない部屋も、一人では寂しさが募っていく。

「いつまで、こんな生活が続くのかな。父様が無事かどうかなんて、ここに閉じこもっている限りわからないし……。いつになれば外出許可が下りるのかも、出張中の土方さん頼みだし……」

 後ろ向きなことを考えた途端に、暗い独り言が次々と口をついて出ていく。
 今は、とにかく待つしかないのだと思っていても、何度も同じ事を考えてしまう。
 現状が打破されない限り、千鶴の不安は増していくばかりである。

「でも……」

 不意について出た言葉は、千鶴も知らぬうちに明るい響きが伴っていた。

「皆、良くしてくれるし。……きっと、根は良い人たちなんだよね」

 たとえ、彼らが千鶴と眞里の生殺与奪権を有している、巷では人斬り集団と呼ばれていても。

「君さ、騙されやすい性格とか言われない?」
「っ!!?」

 彼らの顔を思い出していた千鶴は、突然聞こえた楽しげな声に驚き、慌てて振り返った。
 そこには何気ない顔で沖田が部屋の中にいた。

「ど、どどどうして沖田さんがっ!?」
「あれ、もしかして気づいてなかったとか? この時間帯は僕が君の監視役なんだけどなー」

 千鶴と眞里には常時、幹部の監視がついている。
 常時ついているということは、千鶴が気づく前からずっと居たということである。そのことに気づいた千鶴はおそるおそる沖田を伺い見る。

「もしかして、私の独り言も全部……?」

 沖田は答えずに、目を輝かせて首を傾げて見せた。ただそれだけの動作で、彼の答えを知った千鶴は羞恥でうなだれる。
 更に千鶴に追い打ちを掛けるように、襖の陰から音もなく斉藤が姿を現す。

「総司、無駄話はそれくらいにしておけ」
「……斉藤さんも聞いてたんですか?!」
「……つい先程来たばかりだが」

 ほっと胸をなで下ろすが、千鶴の様子を見て斉藤は小さく首を傾ぐ。

「そもそも今の独り言は聞かれて困るような内容でもないだろう」

 内容云々よりも、聞かれた事実が問題であると千鶴は一人心の中で羞恥にあがくが、楽しげな笑みを浮かべる総司と千鶴を見て斉藤は困ったような顔をした。

「夕飯の支度ができたんだが、……じゃまをしただろうか? あんたと総司の話に一区切りついたら、声をかけるつもりだったんだが……」

 ちらりと総司を見ると、長引きそうだったからな。と続けた。そしてそのまま視線を廊下へと向けると、誰かが駆けてくる音が響き、藤堂が膨れ顔を覗かせた。

「あのさ、飯の時間なんだけど―」
「すまん平助、今行く」
「はいはい、千鶴も急げって。早くしねえと食うもの無くなっちまうからね」

 斉藤の返事に顔を元に戻すと笑みを千鶴に向ける。千鶴は自分の独り言のせいでドタバタしてしまったことに思い至り、慌てて頭を下げる。

「ごめんなさい、藤堂さん。すぐに行きます」

 先に向かいかけていた藤堂は立ち止まると、不満そうな顔で千鶴を振り返り口を開いた。

「あのさ、その『藤堂さん』ってやめない? みんな平助って呼ぶからそれでいいよ」
「で、でも……いいの?」
「歳も近いから、そのほうがしっくりくるし」
「じゃあ……平助君で」

 千鶴の言葉に平助は満足げに頷く。それと同時に何かを思い出したように、腕を組む。

「眞里さんもまだ『藤堂殿』なんて呼ぶもんなぁ。俺より年上の人にそうやって言われるのもむず痒いし、眞里さんにも名前で呼んでもらおうかな」

 妙案だとばかりに駆けていく藤堂を呼び止めようとするが、千鶴の声も届かず彼は先に戻ってしまった。

「どうかした?」
「あ、いえ……。多分、眞里さんは平助君のこと名前呼びを了承しても、『平助殿』のままだと思うんです」
「……それは仕方のないことだ。早く行くぞ」

 さっさと歩き出す斉藤と沖田に置いて行かれないように千鶴も慌てて部屋を後にした。


**

まだまだゲームから離れられませんね。

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009:黒い炎 遙か4

移り往く季節を君と


デフォルト名:朔夜


 何もなかった場所から燃え上がる炎。
 何もなかった場所から落ちる雷(いかづち)。

 常世を統べる皇の下にある八雷(やのいかづち)は、その名はあくまで名称であり役職であるが、朔夜の知る限り炎雷(ほのいかづち)を拝するナーサティアと黒雷を拝するアシュヴィンはその名を現すかのように炎を、雷をそれぞれ意のままに操る。
 朔夜が中つ国において春を司る姫として、王族として当たり前のように霊力を有することを当たり前のように周囲が思っていたように、彼らに対しても当たり前の如くしている。


「んー、僕はあんまり考えたことないけど……。姉様が不思議に思っても僕は答えれないや、ごめんなさい」

 義弟であるシャニも若くして八雷である若雷を拝しているが、朔夜の望む答えは持ち得なかった。

 膝に乗った重みに朔夜は小さく息をついた。小さな温もりをこうして抱えていると、橿原宮での数少ない温かい記憶が蘇る。
 黄金に輝く御髪をそっと指で梳き、花冠を乗せあい、微笑みを交わしてその日の出来事を話す。

 今手のひらにあるのは、黄金と対をなす白銀の髪。長くはなく、癖がありふわふわと指に小さな反発をしてくる。

「んー……」
「眠い?」
「ううん、寝たら勿体ないよ」

 せっかく兄様がいなくてどくせんしてるのに。

 小さな呟きと共に、小さな頭が胸元にもたれ掛かり、膝にかかる重みが増した。義弟の体をそっと抱え直すと、小さく唄を口ずさむ。
 中つ国の、幼い子供ならば殆どの者達が聞いて育つ唄。
 残念ながら朔夜や従姉は聞いて育つことはなかったが、下りた村々ではよく耳にした。なので、二ノ姫は朔夜や一ノ姫の歌う唄を聞いてきた。
 吹き込んできた風に肩が震えるが、今は腕の中の温かな温もりを手放したくない。

「我が妃の眠り唄は心地よい合歓へと導くのだな」

 ふわりと肩に厚いものが掛けられ、立った風が慣れた香りを運ぶ。後ろから聞こえた声に唄を止めて首だけで振り返る。

「もう終わったの?」
「ああ。サティが早く終わらせてくれたからな。……で、我が時はいつまでそれを?」
「それって、あなたの大切な弟であり、私の義弟よ」

 大人数の兄弟である常世の王族は朔夜が当初思い描いていたほど仲が良好ではなかった。その中で、夫となったアシュヴィン、義兄のナーサティア、義弟のシャニは比較的兄弟間でも交流がある方である。

 アシュヴィンは穏やかなまなざしでシャニを見るが、白銀の髪を指に通すと顔を曇らせる。

「……シャニに出雲を任せることになった」
「出雲を?」
「ああ。おそらく本決まりだ。変更はない」

 出雲。古くから神に纏わる話しが多く、神話の里。中つ国の初代神子の伝承の地もあの場にある。
 熊野とも違う神域の空気を思い出すと身が引き締まる。

「出雲はどのような処だ?」
「神話の出ずる場所、とよく聞いたわ。人々は神を忘れてしまい、名を呼ばなくなり加護を失っているけれど、出雲ではまだ神の祠は大切にされているの。名を忘れても、祈り願っている。中つ国の、原点とも言えるわね」
「原点……」
「そう。今は忌み地とされているけれど、神卸しの土地も出雲にあるわ」

 一度赴いた地を思い出す。
 百合に囲まれた、美しい土地。まだ龍の息吹を感じる不思議な場所。何故、忌み地なのか。分かるようで分からない。

「どちらにしても、シャニは出雲に行く。何か気をつけるべきことがあれば教えてやって欲しい」
「分かったわ」
「しかし、ようやく俺の敵が一人減るな」

 楽しげな色を秘めた低い声に首を傾げる。
 アシュヴィンの敵は多い。ただでさえ多い兄弟。跡目争いは本人を置いて激化していく。それに加えて彼は、皇の正妃の息子。血統としては申し分ない。
 アシュヴィン本人も、国をよくするために皇の位は視野に入れている。しかし、シャニやナーサティアを敵とは見なしていない筈であった。

 それを知っているため夫の言葉の意味を計りかねている朔夜の顎を取ると、顔を寄せてアシュヴィンは艶やかに笑う。
 唇に息がかかりそうな距離でささやきを落とす。

「敵は敵でも、恋敵という敵だがな。お前の夫は俺だと言うのにな」

 朔夜の抗議と呆れの声は、彼の唇に飲まれ音になることはなかった。



***

甘い……

描写する100のお題(追憶の苑)

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