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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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薄桜鬼 番外

デフォルト名:立花眞里


※随想録未プレイ、アニメ第8話より



 煌びやかな室内。賑やかな笑い声。君菊に連れて行かれる千鶴を笑顔で見送る眞里は我関せじと再び箸を取った。
 流石京の島原が出す食事と酒に下鼓を打っていると、不意に襖が開かれて千鶴が戻ってきた。

「眞里さんの分もあるそうですよ!!」
「……え?」

 がしりと、両腕を掴まれる。見上げれば、永倉と藤堂が両腕を片方ずつ掴んでいる。つかつかとやってきた沖田が眞里の手から器箸を取り上げる。

「この際だ、眞里ちゃんも!!」
「いや、あの」
「そーそー!」

 引き上げられ、千鶴の方まで引き擦られる。突然のことに抵抗もできずに引かれていくが、助けを求めて、上座の土方や斉藤や原田へと目を向けるが。

「……好きにしろ」
「え?」
「楽しみにしてるぜ」
「え、ちょっ……!」

 巻き込む満面の笑みの千鶴と、楽しそうな君菊に引き渡されそのまま襖が閉められる。

「ちょっ、あの、こ、困ります!!」

 襖の遠くから眞里の困惑した声が聞こえる。眞里ならば簡単に振り払える腕の筈だが、女性に対して優しい眞里には振り払うことのできない枷になっているらしい。




 袴も着物も剥ぎ取られ、流石に湯殿までは連れて行かれなかったが髪も解かれ、豪華な着物を着せられ、帯を締められる。
 白粉は断固拒否し、簡易な化粧にとどめてもらう。最後に髪に簪や櫛を飾り紅をさす。

 傍らで眺めていたらしい千鶴の息をのむ音が聞こえた。

「うわあ、うわあ……! 眞里さん、スゴく綺麗……!」
「ほんまに化けましたなあ」

 差し出された手に手を重ね立ち上がる。憂鬱にため息を吐けば簪がしゃらりと綺麗な音を立てる。
 とてつもなく重い頭に苦笑いとともに懐かしさが浮かぶ。
 隣で感激している千鶴を微笑ましく見て口元に笑みを刷く。

「千鶴の方が綺麗だよ」

 途端に真っ赤になって俯く可愛らしい妹分に眞里は君菊と共に相好を崩した。

 先導されるままについていき、座敷の前で膝を突く。
 君菊が襖を開き、残っていた幹部に笑みを向ける。襖を通して室内の酒の臭いが流れてきた。

「お待たせしました」
「お、待ってましたー!!」

 藤堂の声に千鶴が静かに立ち上がり先に室内に入る。その後に眞里も続く。

「失礼します」

 頭を下げる千鶴の声は震えていて、緊張を如実に表していた。反対に眞里の声は平坦で、有り体に言えば投げやりであった。
 顔を上げろとはやし立てる声に従って、三つ指ついた体勢からゆっくりと頭を上げる。
 室内の空気が固まったのが眞里にも千鶴にも分かった。

「……ど、どうでしょうか」

 不安な様子の千鶴に、沖田は一人楽しげな笑みを浮かべた。

「可愛いよ」
「っ、あ、……その、ありがとうございます」

 言葉尻は小さくなっていったが千鶴は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。恥じらう千鶴を後目に眞里は悠然と室内を見渡す。
 藤堂も永倉も顔を赤くして言葉を失っている。千鶴の変貌に見惚れているようだ。
 原田と土方は共に満足したような笑みを浮かべ、斉藤はよく分からない。

「……本当に、眞里と千鶴ちゃんかい?」
「ええ、永倉殿。お顔が真っ赤ですよ」
「っっっ!!」

 意識して柔らかい声で話せば永倉と藤堂が息をのむ。真っ赤になって言葉にならない何かを口から紡ぐように忙しなく開閉させる永倉の様子に懐かしさを覚えて、袖で口を隠しながら笑う。

 ちらりと千鶴を見やるがまだ沖田にからかわれて真っ赤になっている。豪華な着物を着せられて自分の膳を食べ続けるのも如何なものかと思い、君菊を見やる。

「お酌して差し上げましょ」
「……私に酌をされても愉快ではないと思いますが」

 促されるままに静かに立ち上がり、上座の土方の下へと向かう。隙のない動作で、隣に腰を下ろすとたおやかな動作で徳利を持ち、差し出された猪口に注ぎ込む。

「雪村と違って馴れてんな」
「……まあ、幼い頃から姉上方にいいようにされていましたから」
「そうか」

 くつくつと喉の奥で笑う土方の頬はうっすらと赤い。口調もゆったりとして、口数も少ないことから既に酔っているのだろう。

「土方さんよう、独り占めなんてずるいぜ!!」
「そうだそうだ!! 俺たちだって眞里さんに酌してもらいてえよ!!」
「ああ分かった分かった。おい、立花行ってやれ」

 首肯すると静かに立ち上がり、永倉と藤堂の間に腰を下ろす。徳利を持ち上げると、真っ赤な顔をした二人が猪口を差し出す。

「どうぞ」
「あ、ありがとなー!!」
「お、おう! こ、こ、こんな美人さんに酌してもらえるとはー、永倉新八悔いはないっ!!」

 真っ赤なままくいと勢いよく飲み干す二人に驚くが、あまりの狼狽ぶりに笑いがこみ上げる。
 差し出される猪口に酒を注ぎ、飲み干す二人を見てまたくすくすと笑う。

「眞里さんがそんなに笑うの珍しいなー、なあ新八っつぁん」
「お、おう。そ、そそ、そうだな!」
「そうでしょうか? それより、お二人共深酒を召されませんように」

 確かに声を上げながら笑うのは久しぶりかもしれない、と自覚しながらも答えをはぐらかして眞里は再び立ち上がった。
 ようやく自分の膳に戻ろうかと袂を振った瞬間に原田から名を呼ばれた。
 振り返れば彼は珍しく不機嫌な様子で眞里を手招きしていた。

 静かに彼の隣に腰を下ろすと、無言で徳利を渡される。
 眞里も無言で受け取ると、無言で猪口へと注ぐ。

「原田殿、どうかされましたか?」
「……あー、いや」

 気まずそうに言葉を濁し視線を彷徨わせる。くいと猪口の酒を飲み干すと差し出されるので再び注ぐ。不機嫌から一転、戸惑っている様子に首を傾げる。簪がしゃらりと音を立てた。

「……その、こういうの馴れてんのか?」
「……?」

 意味が分からずますます首が傾ぐ。
 その様子を横目で見たのか、原田は決まり悪そうに髪を乱暴に掻くとちらりと眞里を見た。

「千鶴はかなり恥ずかしそうに戸惑ってるが、眞里は馴れてるみてえだし。板についてんだろ」

 ようやく合点が行ったのか、眞里はああ、と頷くと笑みを浮かべた。
 先程までの楽しそうなものとは違い、昔を思い出すときに浮かべる寂しげなもので原田は息をのんだ。

「立花の家だけで宴を開くと、母上や姉上によく着せられたんですよ。武田の時もたまにありましたが……」

 眞里が着物を着る度に、幸村は新八よりも全身を真っ赤に染めて『破廉恥でござるぅぅぅぁぁぁああ!』と絶叫したものだ。
 新八を見てそれを思い出したことを話すと、原田は先程までの不機嫌と狼狽から一転して優しげな笑みを浮かべた。

「綺麗だぜ」
「っ……」

 黄色がかった瞳が優しく細まるのを見て眞里は息をのんで目を逸らした。
 反らされた眞里の頬が薄く染まってるのを見て原田は満足げにくつくつと喉で笑い、再び猪口を差し出した。

「別嬪な姉さん、酌。頼むぜ?」
「……分かりました」





 楽しげな原田と恥じらう眞里という珍しい組み合わせに千鶴は頬を染めながらその光景を見ていた。
 そんな千鶴の様子に気づいた沖田と斎藤は彼女の視線の先を辿り、同じものを目撃した。

「ああ、左之さんが珍しいね」
「何がだ」
「左之さんって手酌で飲むでしょ?」
「立花に酌をしてもらうと美味いのではないだろうか」
「さ、さ、斎藤さん!?」
「何かおかしなことを言っただろうか」

 真っ赤になった千鶴を不思議そうに眺める斎藤に沖田は腹を抱えて笑い出した。目尻には涙さえ浮かんでいる。

「おい、総司!!」
「なーに新八さん。眞里ちゃんを左之さんに独り占めされて悔しいの?」
「っぐ……!!」

 新八は悔しそうに原田と眞里を見るが、その光景にため息をつくと徳利の酒を猪口に勢いよく注ぎ一気に飲み干した。

「っかー! 左之のあんな顔見たら邪魔できるかってんだ!! おい、平助!! 飲みまくるぞ!!」
「ああ!!」

 勢いよく酒を飲み干していく二人を見て千鶴は驚きに目を白黒とさせる。
 斎藤は我関せじと食事を続け、沖田は笑いながら猪口を千鶴に差し出す。

「あの二人がどうかした?」
「……いえ、君菊さんと土方さんの時も錦絵から出てきたような美男美女だなって思ったんですけど……」
「ああ、眞里ちゃんと左之さんも同じような感じだもんね」


***

ちょっとは原田×っぽくなったかな?
眞里は女物の着物も馴れてます。

原田さんって、讃辞とかは惜しみなく言うけど、「好きだ」とかはあまり言わない気がします。「俺はお前に惚れてる」とかは言いそうだけど、ストレートな言葉は恥ずかしがりそう。

斎藤さんが空気でした。

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薄桜鬼20

デフォルト名:立花眞里


 大急ぎで支度を済ませた新選組一行は、伏見奉行所まで辿り着いた。奉行所には長州との戦いに備えて、京都所司代の人々が集っているようであり、門の外にいながらもその熱気が伝わってくるようだった。
 浅葱の羽織の集団に門の傍にいる者達が気づくと、先頭に立っていた近藤が役人へと近づく。彼らは既に浅葱の集団が新選組であることに気づいているようであり、新選組の名が知れ渡っていることが伺えた。

「会津中将松平容保様お預かり、新選組。京都守護職の要請により馳せ参じ申した!」

 朗々と告げる近藤の言葉に、役人は訝しがるように眉を寄せた。その声は困惑と苛立たしさが混ざり、刺々しかった。

「要請だと……? そのような通達は届いておらん」
「――え?」

 千鶴の洩らした呟きが聞こえたのか、斎藤は吐息と共に小声を零す。

「内輪の情報伝達さえままならんとは、戦況に余程の混迷を呈したと見える」
「戦況に混迷って……。……幕府側の勢力が、長州側に押され気味だってことですか?」
「そうとも限らん。……しかし、敵方に翻弄されてはいるのだろうな」
「………」

 眞里は二人の会話を聞きながら、聞きかじった知識を思い浮かべる。所司代は守護職の部下に当たるが、守護職は会津藩の仕事であり、所司代は桑名藩の仕事であるらしい。
 眞里には藩事情というものは分からないが、複雑なのだろうとあたりをつける。
 どちらにせよ、今の状況は芳しくない。
 長きにわたる太平の世により、戦の仕方など知らないのだろう。鎧兜も付け方を知らないと聞いたこともある。

「しかし、我らには正式な書状もある!上に取り次いで頂ければ――」
「取り次ごうとも回答は同じだ。さあ、帰れ! 壬生狼如きに用は無いわ!」
「っ……!?」

 役人の言葉に殺気が走る。
 壬生狼の意味を眞里は理解し得ないが、発言の様子から新選組に対する侮辱であり、屈辱的な名称なのであろうことは伺い知れる。
 しかし、彼らは一人として発言した役人に対して反駁をなさなかった。彼らとて侮辱に対し平常でいられる訳ではないのだが、耐えるべきところは弁えているのだろう。
 我が事のように悔しがる千鶴は唇を噛み俯く。その肩を原田が慰めるように数度叩く。

「ま、おまえが落ち込むことじゃないさ。俺たちの扱いなんざ、こんなもんさ」
「う……」

 しかし隊士でなくとも悔しがる千鶴に、原田は優しく笑う。

「俺らが所司代に対して下手に騒げば、会津の顔をつぶしちまうかもしれないしな」
「あ……」

 新選組は会津藩預かりであり、が桑名藩に刃向かったとなれば、藩同士のもめ事になるのだろう。それを分かっている彼らは何もいえない。

 困り切っている近藤の後ろに寄った斉藤は役人に聞こえない声量で進言した。

「近藤局長、所司代では話になりません。……奉行所を離れ、会津藩と合流しましょう」
「うむ……。それしかないな。守護職が設営している陣を探そう」

 振り返った近藤は会津藩の陣営に移動することを決め、会津藩邸へと向かうことを告げた。




 会津藩邸に到着し、奉行所への連絡不備について報告し、どのように動けばよいのかを尋ねた新選組に対し、役人は九条河原へ向かうように告げた。

 再び歩き始め九条河原へと向かう隊士達は、盥回しにされる現状に対し、不満を蓄積させていった。それは幹部でも関係なく、まして隊士ですらない眞里と千鶴も同じであった。

 九条河原に到着し、その場にいる者に再び近藤が会津藩からのお達しで新選組が来た旨を告げた。しかし、やはりそこでも連絡不備が露わになった。

「新選組? 我々会津藩と共に待機?」
「そんな連絡は受けてはおらんな。すまんが藩邸へ問い合わせてくれるか」

 会津藩士でさえ首を傾げ、追い返す発言に、永倉の堪忍袋の緒が切れた。

「――あ? おまえらのとこの藩邸が、新選組は九条河原に行けって言ったんだよ! その俺らを適当に扱うってのは、新選組を呼びつけたお前らの上司をないがしろにする行為だってわかってんのか?」

 怒鳴り出すかと思っていた土方ではなく、永倉の怒声に眞里は思わず苛立ちを忘れて彼の顔を見る。捲くし立てられた藩士が言葉に詰まると、近藤が大らかな笑顔と共に口を開いた。

「陣営の責任者と話がしたい。……上に取り次いで頂けますかな?」

 藩士が尚も何か言おうとするが、苛立ちが頂点となっていた新選組からの殺気混じりの睨みに慌てて陣営の奥に走っていった。

 近藤達が陣営責任者と話を終え、ようやく九条河原で待機することが許されたのは日も暮れた頃であった。
 今後の動きについて、会津側との相談をするため席を外した局長たちとは別にその場に残った幹部達は野営の準備を始めた。
 野営をどのようにするかと思案を始める中、立ち去り間際に土方が「立花、任せた」と告げていった為に、眞里は野営の準備の司令塔として忙しい時間を送る羽目になった。

 野営の準備が終わった頃、近藤達が戻ると眞里はようやく人心地つけるために、たき火を囲む幹部の隣に腰を下ろした。

「お帰り、立花君。助かったよ」
「井上殿もお疲れさまでした。白湯でよろしければお持ちしますよ?」
「ああ、面倒でなかったら近藤さん達の分もお願いして良いかな」

 小さく頷いた眞里は再び立ち上がり、食事の指示をしていた場所から白湯を数人分もって戻る。白湯を配り終えると、近藤達は疲れたように苦笑した。

「ああ、ありがとう」
「いえ、ここの兵達は主戦力ではないですね」

 野営の設営にあたって、会津藩陣営に足を何度か伸ばした眞里は印象から受けた推測を口にする。井上は驚いたように目を瞬くが、隣にいた土方は目を細めて笑うと、「よく分かったな」と喉の奥で笑うように言った。

「立花君の言うとおり、ここの兵達は主戦力じゃなくただの予備兵らしい。会津藩の主だった兵たちは、蛤御門のほうを守っているそうだ」

 やはり、と納得する眞里とは別に千鶴は驚いたのか目を瞬く。

「新選組も予備兵扱いってことですか?」
「……屯所に来た伝令の話じゃあ、一刻を争う事態だったんじゃねぇのか?」

 永倉は苛立たしげに不平を洩らす。対照的に斉藤は淡々と述べる。

「状況が動き次第、即座に戦場へ馳せる。今の俺たちにできるのは、それだけだ」
「夜襲の可能性はないとは言えませんがそのような度胸はないでしょう。そろそろ食事をお持ちします」
「お、飯か! さすが、眞里は仕事が違うな!」
「わりいな、いつもいつもこんな仕事ばっかさせて」
「でも、手慣れているねぇ」

 いくら武家の娘で跡取りとして育てられたとしても、手慣れ過ぎている。違和感に訝しむ幹部へと眞里はうっすらと笑みを浮かべると、静かに立ち上がる。去りゆく背中をぼうっと見ていた千鶴は慌てて後を追いかける。

 簡易な食事で腹を満たすと幹部の中に千鶴と眞里も混ざり一つのたき火を囲っていた。
 可能性がない訳ではない以上、突然の夜襲も起こりうる。千鶴は気を抜くものかと真剣な顔でたき火を見ていた。隣に座る眞里は思わず苦笑いを浮かべる。
 寝ずの番の見張りを申し出たが、幹部以外にも平隊士も含めて全員から却下されたためにおとなしく千鶴の隣に腰を下ろしていた。

「千鶴、休むなら言えよ? 俺の膝くらいなら貸してやる」

 千鶴の様子に原田が笑み混じりに言うも、千鶴は真面目に首を横に振った。

「大丈夫ですっ」

 微笑ましいものを見るように穏やかな空気が流れる中、眞里はそっと千鶴の頭に腕を回すと、自分の肩に凭れさせる。
 困惑して見上げてくる視線に穏やかな笑みを返す。

「私は慣れているから、遠慮しなくていいよ」
「……でも」
「きちんと寝た方が千鶴は動きやすいから、肩でも膝でも使って寝なさい。役に立ちたいという気持ちなのなら、貴女が今すべきは?」

 暫し考え込むと、千鶴は恥ずかしそうに俯きながら眞里にもたれ掛かりやすい体勢になると、肩に頭を預けて目を閉じた。

「お借りします」
「どうぞ」

 呆気に取られる周囲に気づかないまま、千鶴は小さな寝息を立て始めた。眞里は前から思っていたことだが、やはりこういった場所でも寝られるところを見ると、千鶴は中々図太い神経をしているのではと再認識させられる。
 寝づらそうなので膝の上で横抱きに抱えて、眞里に凭れさせる。それでも起きないところを見ると、しっかり寝入っているようだ。

「かーっ、羨ましいぜ」
「新八が行っても雪村は眠らないだろう」
「何だと!」

 永倉と斉藤のやりとりを聞きながら、原田は羽織を脱ぐと眞里の肩に掛ける。礼を目を細めながら受けると、先ほどまで千鶴が座っていた場所に腰を下ろす。

「なんつーかよ、お前って俺らより場慣れしてるような感覚があるよな」
「そうだろうな」

 思いも寄らぬ場所からの返答に永倉と斉藤ですら発言者、土方を見た。彼は腕を組みながら目を閉じていた。

「土方殿?」
「土方さん?」
「……話したくねぇっていうならそれでいい。お前の判断に任せる」

 土方はゆっくりと眞里を見据えて語る。その意味を知るのは、眞里以外には近藤と千鶴のみであるため知らない幹部は皆一様に首を傾ぐ。
 眞里は暫し目を閉じて黙考した。


 過去を語ることは構わない。自分自身未だに信じられないことではあるが、これが現実であると理解はしている。諦めてもいた。
 このような絵空事にも等しい話はしたところで否定されるか、流されるかしかない。

 否定されても構わないと思っている。気違いだと言われることも。

 しかし、眞里の過去など知らずとも良いことであると眞里は思うのだ。
 自分の身の証をたてるため、近藤と土方には話した。結果的に真であると受け入れてもらえた。けれど、所詮は過去のことである。眞里の過去など知ったところで新選組の役には立てない。
 今回のように野戦があれば、知識を役立てることはできる。しかし、話す必要性は感じないのだ。

 今後の身の振り方で幹部には話していた方がいいと土方が判断するならばそれに従うつもりである。

「土方殿が、必要があると判断するならばそれに従います」
「おい、土方さん。何の話だ?」
「こいつが、何で剣も槍も腕が立ち、野営の知識があるかってことだ」

 一斉に視線を感じ眞里は首を傾げる。やはり気になることなのだろうか。
 誰もが沈黙に口を閉ざす中、永倉だけが一人笑った。

「そりゃあ気になるな。俺もお前さんからは一本取るのがやっとだ。その腕は並大抵のもんじゃない」
「そうだな。ま、過去っていうよりか、どうやって磨いてきたかって方に興味はあるな」
「オレも、立花がどのような鍛え方をしてきたかという点には興味が沸く」

 思わぬ言葉に眞里は目を瞬き、ふわりと笑みを浮かべた。

 千鶴以外にあまり見せない笑みをたき火の明かりの元とはいえ、目撃した彼らは言葉を失った。


***

面倒なので禁門の変が終わったら暴露します。
ようやく!! 書きたいシーンが!!そしてついに20話突入!

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薄桜鬼19

デフォルト名:立花眞里


 千鶴が原田と巡察に出た数日後のこと。朝から幹部が広間に集まるということを聞き、眞里と千鶴で幹部全員分の茶を準備をし、集まっていた幹部へと配る。

「失礼します」

 二つのお盆に分けられた幹部全員のお茶は二人で配れば早く配り終わる。しかし準備に少し手間取ったために、冷め気味なものが混じっているようだった。そのことをしきりに気にするが、口をつけなければわからない為受け取った幹部は皆笑顔で礼を言う。

「すまねえなあ、千鶴ちゃん。そうやってると、まるで小姓みたいだな」
「あ、ありがとうございます」

 喜ぶべきか分からない言葉に、反応に悩みながらお茶を置いていく。千鶴を後目に眞里は配り終えて数歩下がった位置に腰を下ろす。

「ありがとう、雪村君、立花君。……すまんねえ、こんな仕事まで」
「あ、私なら大丈夫です。皆さんには、お世話になってますし」

 普段があまり新選組の役に立っていると思えていない千鶴は静かに首を横に振る。何も仕事がないより化は雑用でもいいから何かしていたいのだろう。
 しかし、千鶴が現在受け持っている仕事は地味で大切なものばかりである。新選組が日常に煩わされずに過ごせるのは、千鶴の決して小さくはない献身のおかげである。
 本人は全く気づいていないが。

「まあ、でも眞里ちゃんは既に土方さんの小姓みたいになってるけどね」

 そう言って、お茶を一口飲んでから沖田はなぜか目を細める。その細められた視線を受けてしまった千鶴は身を小さくする。

「……あの。お茶、渋かったですか?」
「美味しいよ? ……ちょっと温いけど、これくらい隙のあるほうが君らしいよね」

 首を横に振りつつ言われた言葉に千鶴は慌てて頭を下げる。よりにもよってぬるめのお茶が沖田へと行ってしまったのだ。
「………すみません……」

 沖田が楽しげに笑みを浮かべるのを千鶴以外の者は呆れたように溜息を吐いたとき、引き戸が開き、その場にいなかった近藤が足音も荒く現れた。
 機嫌を損ねているのではなく、気持ちを抑えきれないような動作で腰を下ろすと幹部の顔を見渡し、朗々と声を張り上げた。

「会津藩から正式な要請が下った。只今より、我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」

 おお、と歓喜の声が広間に響く。会津藩からの正式な要請が下るというのは、新選組が会津藩に認められたといってもいいことであった。

「ついに会津藩も、我らの働きをお認めくださったのだなあ」
 号令をかけた近藤自身もとても嬉しそうである。会津藩から直々の要請が届くというのは、それだけ重大なことなのだろう。しかし浮き立つ皆とは対照的に、土方は苦い顔をして浮き立つ幹部の顔を見渡した。

「はしゃいでる暇なねえんだ。てめえらも、とっとと準備しやがれ」

 既に長州が布陣を終えていることは、京に居るものならば誰でも知っている。出陣要請が来るにしても、遅いということはやはり新選組の扱いはまだ低いものであるということを意味している。

「ったく……。てめえの尻に火がついてから、俺らを召喚しても後手だろうがよ」

 吐き捨てるように愚痴をこぼす土方に眞里は苦笑いしか浮かばない。戦は速さが命である。後手から巻き返すのは不可能ではないが、難しい。

「沖田君と藤堂君は、屯所で待機して下さい。不服でしょうが、私もご一緒しますので」

 山南は軽く左腕をさすりながら目を伏せる。皆はちらりと山南へと視線を向ける。

「君たちの負傷が癒えていないように、私の腕も思うように動きませんから」

 自嘲の響きに千鶴は狼狽えたように視線を彷徨わせるが、眞里も含め幹部は既に山南の言動には耐性がついていた。大坂での負傷以降、山南の物言いは鋭さを増し、周囲と自分に傷を付けていく。それを止める術を持つ者が一人もいない。自然と皆は交わす術を身に付けていった。

「傷が残ってるわけじゃないですけどね、僕の場合。でも確かに本調子じゃないかな」
「オレだって別に大した怪我じゃないんだけど。近藤さんたちが過保護すぎるんだって」

 さらりと流した沖田に続き、藤堂は不満を露わに口を尖らせる。彼を見て原田はにやりと笑みを浮かべた。

「大した怪我じゃないとか嘘吐くなよ。昨日も傷口に薬塗られて悲鳴上げてただろ」
「うわ、そういうこと言う!? 左之さんには武士の情けとか無いの!?」
「けど、本当のことだろ?」

 あっさりと切り替えされて藤堂はばつが悪そうに千鶴をちらりと見やる。

「……せめて女の子の前では、黙っててくれたっていいじゃん」

 視線を受けた千鶴は藤堂の声が聞こえなかったのか小さく首を傾げて藤堂を見返した。藤堂は恥ずかしそうに頬を掻きながらそっぽを向いてしまう。
 今は前髪で隠れているが、池田屋で負った傷は痛々しいものである。
 二人のやりとりを眺めていた永倉はふと思い出したように不意に千鶴を見た。

「そういえば、千鶴ちゃん。もし新選組が出陣することになったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」
「……え? でも、あの……」

 不意に振られた千鶴は咄嗟に言葉を探すが、否定の言葉を口にする前に近藤が笑顔で膝を打った。

「おお、そうだな。こんな機会は二度と無いかもしれん」
「――えっ!?」
「うわ。いいなあ、千鶴。折角だしオレの分まで活躍してきてよ」
「――か、活躍っ!?」

 思いがけぬ局長からの賛成の言葉と藤堂の言葉に困り果てた千鶴は隣の眞里の袂を握りしめ眞里を仰いで見た。
 眞里は苦笑すると、決定権を持っている呆れた顔をしている土方を見た。
 土方は呆れたような溜息を吐くとすかさずに反対する。

「今度も無事で済む保障はねえんだ。おまえは屯所で大人しくしてろ」
「君は新選組の足を引っ張るつもりですか? 遊びで同行していいものではありませんよ」

 山南の冷笑に千鶴は肩に力が入る。確かに池田屋の時とは違い、今度は確実に戦場である。危険度は比ではない。
 重々承知している千鶴は、土方の意に沿うことを口にしようとするが、思いもよらぬところからの助け船に言葉をなくした。

「山南総長。それは――、彼女が迷惑をかけなければ、同行を許可するという意味の発言ですか?」

 斎藤であった。千鶴も驚きに目を瞬くが、反論された山南も他の幹部も意外だったのだろう。驚きも露わに皆が斉藤を見つめていた。

「…まさか、斎藤君まで、彼女を参加させたいと仰るんですか?」

 確かめるような言葉に斉藤は少し考えると緩く首を左右に振る。自分の考えを確認するように、言葉をゆっくりと紡いでいく。

「彼女は池田屋事件において、我々新選組の助けとなりました。働きのみを評価するのであれば、一概に『足手まとい』とも言えないかと」

 確かな正論に誰もが続ける言葉をなくした。落ちる沈黙を払拭するように、近藤がよし、わかった。と大きな声を上げた。その場の視線は近藤へと再び集まる。

「君たちの参加に関しては俺が全責任を持とう。もちろん同行を希望するのであれば、だが」
「あ、あの……」

 いいのかなと、千鶴は眞里を伺い見る。気づけば、千鶴はこのような場の判断をするときに眞里の意見を求める。しかし、眞里としては千鶴が決めればいいと思っているために促す笑みを浮かべる。さらに困ったらしい千鶴は幹部を見渡す。
 山南はまだ納得していないらしく冷笑のまま。土方は渋面、他の者達は千鶴の決断を待っている。答えあぐねる千鶴を見かねたのか沖田が助け船を出した。

「戦場に行くんだってわかってるなら、後は君の隙にすればいいと思うよ」

 若干投げやりな言葉だが、千鶴の背中を押すには十分だったらしい。数秒の後、千鶴は近藤に参加したい意を伝えた。


 笑みを浮かべる一部の幹部に対して、土方、山南は苦い顔をする。
 一方の眞里は自分は土方の意を汲んで残るべきなのか、それとも千鶴についた方がいいのか分からずに困ったように土方を見る。
 そのことに気づいた土方は深く苦々しい息を吐くと、眞里の名を呼んだ。

「てめえはどうしたい」
「……出来れば千鶴についていたいのですが、ご指示があればそれに従います」
「――ならお前は、」
「おお、眞里君も勿論俺が責任を持とう!!」

 土方が何事かを言う前に近藤が満面の笑みで胸をたたく。
 予想通りだったのか土方は、苦い笑みを浮かべると「お前も来い」とだけ言うと、幹部を見渡した。

「何呆けてやがる!! さっさと支度しやがれ!!」

 低い怒鳴り声に彼らは不適な笑みを浮かべると、腰を上げた。



**

土方さん贔屓なのは仕様です。

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NARUTO 風になれ1

デフォルト名:水無月マツリ



 火の国に存在する忍の隠れ里。木ノ葉隠れの里。火影と呼ばれる里長をトップに、忍や一般人が暮らす隠れ里にしては少し大きな里。

 水無月マツリは木ノ葉の忍の中でも下から二番目の階級、中忍と呼ばれるものだった。
 14歳にして、中忍歴は長いが本人は現状に不満などなくただ毎日訪れる新しい一日一日を楽しんで過ごしていた。

 水無月家はありふれた一家で、まかり間違っても一族秘伝の技とかそんな大それたものはない普通の忍の家系の一人娘である。あえて言うのならば、父方も母方も医療忍を多く排出してきた神経質……ではなく、チャクラコントロールに長けた一族であった。

 幼い頃から目指した忍の姿も医療忍であり、14歳ながらも大人顔負けな技術で医療忍として活躍している。そんなマツリの副業は、アカデミーの非常勤保険医である。

 アカデミーとは、忍の養成学校である。当然怪我が絶えず、勤務医は木ノ葉病院からローテーションで回っている。マツリは木ノ葉病院勤務医ではないものの、カウンセラー的役割を兼ねて週二回保健室に居た。


 ノックの音に本から顔を上げずにどうぞ、と答えページを捲る。
 まもなく扉が開けられ、誰かが入室してくる。入ってきた人物も見ずにマツリは、本を片手に立ち上がり棚の前に立つ。入ってきた者は、足音を消そうとしているものの気配はだだ漏れである。

「今日は何したの、ナルト」
「うっひゃあ! ね、姉ちゃん何で俺だって分かったんだってばよ」
「そんな気配もだだ漏れな子はナルトしか知らないからねー」

 クスクスと笑いながらようやく本を閉じる。栞を挟むとくるりと振り返る。
 金色の髪に水色の瞳。頬には髭のような模様がうっすらついた少年が額からだらだらと血を流していた。

 マツリが言う前に既に保健室利用名簿に名前を書いている。独特な流暢な字体(ようするに見づらい)で『うずまきナルト』と記入している。
 書き終わると素直にいすに腰掛けたナルトの前に立ち、脱脂綿で額の血を拭う。

「今日も派手にやらかしたね。何したの?」
「聞いてくれってばよ!」

 にかっと笑う様はいたずら小僧である。まさしくいたずら小僧なのだが。
 しかし、うずまきナルトがいたずらをする理由をきちんと知る者はあまり多くない。

 里の大人はまるで化け物を見るかのような目でナルトを見て、子供たちもそれに倣っている。

 十数年前、木ノ葉隠れの里を妖狐――九尾が襲った。里は壊滅的なダメージを受けたが、英雄――時の四代目火影が九尾を命懸けで封印した。
 封印されたのは、生まれたばかりの幼子のへその緒。三代目火影は、そのこと伝えることを禁じ、九尾が封じられた子供は普通の子供として育てられた。
 九尾の器になった子供、うずまきナルトに九尾が封じられていることは禁句。しかし、九尾の襲撃で多くの命が失われた。
 身近な者を亡くした者たちは、ナルト=九尾とみなし、蔑み、弾いた。

 親もなく誰にも見てもらえない寂しさからいたずらばかりしているナルトのことをマツリはよく知らない。里の事情も知らない。

 しかし、どんな人間であろうと目の前のけが人を助けることがマツリの忍道である。

「はい、終わりだよ。ナルトは治りが早い子だけど明日までとっちゃダメだからね?」
「分かったってばよ。なあなあ、マツリ姉ちゃん! 明後日は居る日?」
「明後日? ううん、その日は泊まりがけの任務だから里に居ないよ」

 医療忍だが、医療班には所属するも中忍であり、四人組(フォーマンセル)でも任務についていく。14歳だがマツリは中忍なのだ。
 マツリの返答にナルトはがっくりと肩を落とし、いじけたように唇を尖らせた。

「明後日何かあるの?」
「卒業試験!!」

 にっ、と音がしそうな笑みを浮かべたナルトはゴーグルを指さした。そこに額当てをつけるのだと言わんばかりに。マツリはくつくつと笑うと、怪我の手当をした額を指先で思い切りついてナルトをいすから突き落とした。
 盛大な音を立てて落ちたナルトは起きあがるとマツリを睨むがマツリは既に片づけを始めていた。

「合格したらお祝いにご飯食べにおいで」
「え……?」

 戸惑いの空気を感じ振り返ると、親指を立ててにかっと笑う。

「私が帰ってきたら結果教えにきて、そのままうちにおいで」

 ナルトは泣きそうな笑みで頷いた。




 数日後。任務を終えて帰還したマツリにナルトは木ノ葉の額当てをつけて合格を報告にやってきた。

 合格に至るには紆余曲折があったようだったが、無事ナルトが卒業できたことを祝い、水無月家ではご馳走が振る舞われた。



 その翌日。
 アカデミーを卒業した生徒達への説明会がある日。マツリはアカデミーの保健室でまたも本を読んでいた。上級生が卒業しても、まだ下級生はいる。
 しかし、血の気が多い生徒がいないからか保健室は開店休業中であった。

 静かな空間の中で本のページを捲る音だけが響く。
 不意にマツリは手を止め顔を上げると、誰もいない廊下を振り返り首を傾げた。

「お兄ちゃん?」

 姿も音もないが、マツリが彼の気配を間違えることは決してない。案の定、扉が静かに開くとマツリの兄――といっても血の繋がりも、戸籍上も全く関係のない赤の他人だが――が相変わらずのゆるい表情で立っていた。

 木ノ葉の中忍以上に支給されるベストに、顔の半分を覆う口布で顔立ちは分からず、左目を覆うようにかけられた額当て。月の光のような銀の髪。忍の出で立ちをしていなければ変質者と呼ばれてしまいそうな外見をしたはたけカカシは、相変わらずの眠そうな顔で保健室へと足を踏み入れた。

「お帰り、お兄ちゃん」
「うんただいま、マツリ。居てよかったよ」
「うん?」

 奇妙な外見だが、里一番の技師やら、写輪眼のカカシだのと他国にまで名を轟かせる実はすごい忍者であったりするカカシは、マツリにとってはただ手の掛かる兄である。諄いようだが、血の繋がりは欠片もない。

「実はねー、また上忍師になったんだ」
「んー、なら明日はお弁当3つ?」
「うん」
「分かった」
「お願いします」
「お願いされます」

 にこにこと笑うマツリにカカシも表出している右目を細めて笑い、マツリの頭を優しく撫でた。
 カカシが昔住んでいた家と、水無月家は隣同士しであり。カカシの亡くなった父とマツリの父親が幼なじみであったため、カカシも幼い頃から水無月家には世話になっていた。
 カカシが8歳の頃に父が亡くなったものの、マツリの両親はカカシの手助けをしており、息子のように思っていたのだろう。
 マツリが生まれた際に『カカシ君の妹だよ』といい、マツリには『お兄ちゃんだよ~』と言い聞かせて育てたのだ。

 血の繋がりはないが、マツリはカカシを兄であると人に臆面なく紹介するし、カカシもマツリを妹だと人に言う。水無月夫婦も息子であると言って憚らない。
 今は独身者用のアパートに暮らすカカシが突然水無月家に行っても、当たり前のようにカカシの部屋があり、着替えまである。カカシにとっての実家とは水無月の家であると言えた。

「お兄ちゃん今日は?」
「明日まで何もなーいよ。マツリは?」
「もう上がりだよ。帰りにお買い物してくぐらいかな」
「じゃあ一緒に帰ろうか」
「うん」

 当たり前の様に交わす会話。
 感情の起伏があまり激しくないカカシが柔らかな空気になるマツリのことを、カカシをよく知る上忍師達はこう呼んだ。

「カカシの妹」「カカシの泣き所」と。



 帰り道、商店街を二人並んで歩きながら夕飯と明日の弁当の材料を買う。荷物は全てカカシ持ちである。

「よう、マツリ。元気か?」
「あ、シカク先生」

 歩きがけに声をかけられた眞里が顔を向けると、自身の師である奈良シカクが笑みを浮かべて立っていた。その両手は大荷物で埋まっている。おそらく妻に言われて買い物なのだろう。

「カカシも帰ってたのか」
「はい、お久しぶりです。シカクさん」
「おう、相変わらず仲良いな」
「そうですか? よく分からないですけど」

 見上げた兄は、口布で表情は分からないが穏やかな顔をしていることは窺える。
 ふと、思い出したマツリはシカクを見上げ小さく頭を下げる。

「シカク先生、シカマル君の卒業おめでとうございます」
「ああ、ありがとうな。ま、下忍になれるかは分からんけどな」
「……ああ、シカクさんの息子さんも卒業でしたね」
「お前さんが上忍師でなくてよかったよ」
「ははは」

 カカシは忍としてはとても優秀であるが、指導者には向かない。昔から言われてきた言葉である。
 上忍は上忍師となって、下忍を指導し育てる。カカシの年になれば新人の三人組(スリーマンセル)一組は指導経験がある筈であるが、カカシはゼロである。
 アカデミー卒業生は全員が下忍になれるわけではない。卒業生の中から下忍になれるのは9人、三組だけである。
 卒業生をバランスよく三人組に分けた中で三組のみが下忍になれ、残りはアカデミーに戻される。認定試験は故に最初の難関と呼ばれるが、カカシは合格者を一人も出したことがないことで有名である。

「そういえば、誰を受け持つの?」
「ん? ああ、マツリなら知ってるかもネ。うずまきナルト、うちはサスケ、春野サクラだよ」

 マツリもよく知っている三人である。思わず目を瞬くが、シカクもまた驚いたようで目を見開いていた。

「……そりゃあ、また。……大層なメンバーだな。……三代目も思い切ったことをするな」

 最後の方は聞き取れなかったが、マツリはシカクの言葉に違和感を覚えたのか首を傾げる。

「メンバーを決めるのは担当の先生じゃないんですか?」
「先生と火影様が相談するのヨ」
「お前の時もそうだったろうが」

 シカクの言葉に、そういえばそうかも。と思い出したマツリは納得して頷いた。

「ナルトはお兄ちゃんでも大変だと思うよ」
「なになに、そんな問題児?」
「うん。右向け右! って言ったら走り出す子かな」

 左を向くでもなく、後ろを向くでもなく走り出す。そんなハチャメチャさがナルトである。ナルトがしてきた数々の悪戯を思いだしマツリは笑みが浮かぶ。しかしシカクは驚いたようにマツリを見るが、次の言葉を聞き優しげに目を細める。

「でもいい子だよ」
「……マツリ」
「なに先生?」
「お前もいい子だよ」
「おかしな先生」

 クスクスと笑いながら、シカクに頭を撫でられ大人しくする。おとなしいマツリを見ながらシカクは満足してから手を放し、空を見上げて慌てて帰って行った。

「ま、ナルト達がどうなるかは明日にならないと分かんないけーどね」
「うん、楽しみにしてる」

 翌日。ナルト、サスケ、サクラは無事認定試験に合格した。以降第七班、カカシ班として活動していく。


***


導入編。詰め込みすぎました

シリーズ名はすぐ決まりました。
第一部は「風になれ」

14歳にして中忍歴が長いのは、上忍になる気がないのと、カカシに止められているからです。

拍手[5回]

薄桜鬼18

デフォルト名:立花眞里

 文久4年7月。眞里や千鶴は池田屋事件以降、外出許可が下りることが徐々に増え始めていた。池田屋での働きが認められたらしいが、本人達は大したことは何もしていないと恐縮していた。

 千鶴は単に外出できることは嬉しいらしく、素直に喜んでいた。事件をきっかけにしてか、事情を知らない隊士達も二人への接し方が変わっていた。正式な隊士ではないが、新選組に身を置く人間として認められたのだった。

 気さくに話しかけてもらえるようになり、千鶴は笑顔が増えていた。
 一方の眞里は、土方の仕事の手伝いをしている関係か監察方の面々との交流が増えていた。


「こちらの茶屋の汁粉は絶品なんですよ」

 笑顔で店の奥を指さす島田に促され眞里は小さく頷くと、言われるがままに長椅子に腰掛けた。
 暑い日差しに目を細め、吹き抜けた風が頬をなでるのが心地よい。
 幹部との外出許可だったが、眞里は一部の土方が許可を出した者とであれば外出できるようになっていた。
 その日の同行者は監察方である島田魁と、沖田総司であった。

 当初は島田と二人で出る筈だったが玄関で出会った沖田がそのままついてきたのだった。

「島田さんのオススメなら間違いなく美味しいね」
「いやあ、買いかぶらんで下さい」

 照れた島田が頬を掻くと見計らった様に汁粉が出されてくる。差し出されるままに一番を受け取ると眞里は期待の籠もった島田の視線のままに一口食べる。
 言葉もなく自然と目元が綻ぶのを見て彼はホッと安堵した。自分にも渡された汁粉を手にして、沖田は若干嬉しそうな眞里と島田を見て笑った。

「でも意外だな。眞里ちゃん、甘いもの好きなんだね」
「……友人が無類の甘味好きで、毎日のようにつきあわされても嫌ではない程度には好きですよ」

 苦笑混じりのとんでもない内容の言葉に反応は様々であった。
 沖田は嫌そうに顔を歪め、島田は羨ましそうにぽつりと呟いた。

「毎日……」
「とんでもない奴だね、毎日だなんて胸焼けしそう」
「まあ、……見てる方は胸やけしますね」

 しかし、毎日付き合っていたと会う眞里に対しても沖田が胸やけに近いものを抱いたことを二人は気づかなかった。

 脳裏に浮かぶのは、尋常ではない甘味を簡単に消費していく姿である。自身の金は、槍と給金と甘味に費やすと言っても過言ではなかった。
 彼を思いだし、眞里は胸元に手を当てて笑った。
 その動作に沖田は目を細め、意味深な笑みを浮かべた。

「それ、よくそうしてるよね」
「何がです?」
「昔話をするとそうやって着物の上から何かを握りしめてる」

 何があるの?と、好奇の色を隠さない沖田に苦笑すると眞里は汁粉を横に置いた。襟後ろに手を差し込むと何かを指先にひっかけてするすると引き上げる。

 襟元から取り出すと着物の上に出す。
 二人の視線を感じ、そっと手のひらに乗せると、ちゃり、と銭が擦れ合う音がした。

「それって……お金?」
「はい」
「へえ、変わってるね。普通首から下げるなら新八さんみたいに綺麗な石とかでしょう?」

 じっと眺めていた島田は目を細めて何かを思い出そうとするが、思い出せなかったのか誤魔化すように笑みを浮かべた。

「誰かに貰ったものなんですか?」
「先ほど言った友に」

 動作の答えを兼ねての答えに納得したのか沖田は既に汁粉へと興味を移していた。
 紐に通された六文。紐は外されたとがないのか、結び目も見あたらず通された銭も見覚えがないものだった。
 再び仕舞われたそれを目で追いながら沖田はお茶でのどを潤すと、不意に立ち上がった眞里を視界に納める。脱走するならば、斬らなければと柄に手をかけようとするが島田も立ち上がり眞里の後を追いかけたので止めた。

 駆けていった眞里は、大荷物を乗せた荷車を押している町民と共に立っていた。何かを町民の一家の一人に渡し、何度も頭を下げられている。いつの間にか眞里の後ろには島田が立っている。
 何度も頭を下げられ、淡い笑みを浮かべている所から察するに引っ越しの道中荷物を落としたことに気づかずに先へと進む一家に気づき、荷物を拾い追いかけたのだろう。



「ありがとうございます」
「いいえ、誰かに持って行かれなくて良かったですよ」

 何度も頭を下げられるのは感謝半分、眞里が帯刀しているため不当な礼の要求を阻むためが半分だろう。
 しかし眞里が荷車を後ろから押していた子供の頭を優しく叩き笑う姿を見て親二人は一層畏まって頭を下げ始めた。

「今度は落としたらすぐ気づくようにね」
「ほんまにありがとうございます」
「気にしないで下さい。早く発たれないと」

 眞里がひらひらと手を振ると一家は深く頭を下げると道を急いでいった。
 何度か振り返り手を振る子供に手を振り返すと眞里は島田を仰ぎ見た。彼もまた子供に手を振っていた。

「立花君はよく気づきましたね」
「引っ越される方が多いなと見ていたらたまたま目の端で落とされただけですよ。……それだけ、今の京は不穏な都なんですね」
「ええ、長州の浪人達が再び集まってきているようです」

 町人が逃げ出すのは、戦の前。戦場が近い町や村は人々が次々に逃げ出していく。落ち武者に襲われ、荒らされるからである。落ち武者だけでなく、勝ち軍が理も何もない軍ならば同じこと。
 戦がない時代でも、力の持つものによる弱者への不当な力の振る舞いは変わらないようである。それを思い眞里は深く溜息を吐いた。





 千鶴はその日、十番組の巡察に同行していた。十番組の組長は原田左之助である。
 強面だったり、近寄りがたい者が多い新選組の中で、面倒見がよく優しい人間は希少である。
 千鶴にとって話しやすい人間は少なく、その内に原田は入っていた。よって、巡察に同行するようになってから抱いていた素朴な疑問を問いかけられる貴重な機会であった。

「あの、原田さん。新選組は今日の治安を守るために毎日、昼も夜も町を巡察しているんですよね? それで……、具体的には、どういうことをしているんですか?」

 この様な質問は沖田にすると意地悪なことを言われ、藤堂には気恥ずかしくて聞きづらい。斉藤、土方、永倉は色々な意味で聞きづらい。近藤や井上には質問の機会がない。
 千鶴の予想通り原田は嫌な顔を微塵もせずに、優しく千鶴を振り返り言葉を考えていた。

「ま、ピンからキリまで大小さまざまだな。辻斬りや追剥はもちろん、食い逃げも捕まえるし喧嘩も止める」
「食い逃げ……」
「商家を脅して金を奪おうとする奴らも、俺ら新選組が取り締まってるよ」

 意外だと思った千鶴の顔から考えていたことが分かったのか、彼はからからと笑った。

「案外地味だろう?」
「そ、……」

 否定したいが、否定できずに千鶴は口を噤んだ。素直な千鶴の反応に気を悪くすることなく原田は千鶴の肩を優しく叩いた。

「普段が地味だからな。だからこそ、池田屋ん時はあんなに張り切ってたんだよ」
「納得です。……でも、地味でも大切なお仕事です!」

 地味だが、様々な土地から多くの人が集まる京で不定な輩を取り締まる者が居なければ治安は悪くなってしまう。嫌われ者ではあるが、必要で大切な仕事だと千鶴は思うようになっていた。
 拳を握りしめて断言した千鶴を眩しいものを見るかのように目を細めた原田だったが、不意に顔を上げて道の先を見つめると手を振った。
 千鶴も原田の視線の先を追うと見慣れた羽織姿が手を振っていた。

 二番組の永倉新八である。

「永倉さん!」

 昼の巡察は二つの組で別々の順路を行く。彼は、別の道順で巡察をしていた。

「よう、千鶴ちゃん! 親父さんの情報、なんか手に入ったか?」

 近くまで来た永倉に笑顔で聞かれるが、千鶴は静かに首を振る。

「今日は、まだ何も」
「……んな顔すんなって! 今日がだめでも明日がある。そうだろ?」
「……はい!」

 明るい口調で紡がれる言葉に元気を分けてもらえた気がした千鶴は笑みを浮かべて大きく頷いた。大きな声と喧嘩っ早いところが苦手だが、永倉の前向きな所は千鶴も好感を抱いていた。彼の笑顔は周りを賑やかにさせる。

「で、新八。そっちはどうだ? 何か異常でもあったか?」
「いんや、何も。……けど、やっぱり町人たちの様子が忙しねぇな」

 言われてみて千鶴は巡察の際に見たものを思い出す。確かに町の人の様子は少しおかしかった。そわそわしていた。まるで何かが来るのに不安を覚え立ち去りたいのを堪えているような。
 屯所で、何か悪さをした永倉や藤堂が土方がやってこないかとそわそわしている様子に似ている。

「そういえば……引越しの準備してる人も多かったですよね」

 原田は納得したように頷く。

「戦火に巻き込まれまいと、京から避難し始めてるってことか」
「え……?」

 意味が分からず目を瞬く千鶴を見て、そういえば教えてなかったな、と永倉が説明を加えた。

「長州の奴らが京に集まってきてんだよ。その関係で、俺らも警戒強化中ってわけだ」
「池田屋の件で長州を怒らせちまったからな。仲間から犠牲が出れば、黙ってられないだろ?」

 二人の固くまじめな表情に千鶴も肩に力が入る。
 長州は再び、何かを起こそうとしているのだろうか。新選組は京の治安を守るために戦っていて、池田屋事件でも長州の過激派浪士たちから京の都を守りきった。
 けれど、京の人々は新選組に良い感情を持っていない。

 こうして巡察している間も目を合わせないように顔を逸らされたり、ひそひそと噂をされ、あからさまに避けられるのは日常茶飯事である。
 池田屋事件の後でさえ長州の味方をする町人が絶えないらしい。もちろん新選組の評判も以前より高くなってきているようだが。

「皆さん、京を守るために戦っているのに……」

 理不尽さに悔しさがこみ上げ唇を噛む。しかし、千鶴が口にする不満を永倉はあっさりと笑い飛ばした。

「京の人間は、幕府嫌いだから仕方ねぇって」
「どちらにせよ、俺たちは俺たちの仕事をする。長州の連中が京に来ても追い返すだけさ」

 先ほどの固く真剣な顔から一変して、快闊な笑みを浮かべる二人。
 現状を事実として受け止めて、それに対する不満を言わない。そんなところが凄いと千鶴は一種の感動を覚える。

「対長州か……。もしかすると近いうちに、上から出動命令が出るかもしれねぇな」

 新選組の上は、会津藩である。思い出した千鶴はぽつりと洩らした。

「それ、すごいことですよね?」

 簡素な言葉だが、千鶴の素直な気持ちの籠もった言葉に原田は笑って頷く。

「そんな機会、滅多に無いだろうな。折角だからおまえも出てみるか?」
「えっ!?」

 出る、というのは新選組として出動するということである。
 出たいと言っても簡単なものではなく、気軽に口に出せるものでもない。
 しかし、土方も近藤も代表として参加するだろう。もしかしたら眞里も出るかもしれない。羽織はないが、彼女は隊士達からも一目置かれている。

「んー……」

 戦場になるかもしれない場所に、物見遊山で参加するものではない。しかし、皆と一緒に何かをしたいという気持ちも強く、眞里も行くならばついていきたいという気持ちも強い。何か手伝えることはないだろうかと考えるが戦場を知らない千鶴が思いつくものはない。
 けれど、と千鶴は腕を掴む。戦場に出るのは、まだ怖かった。背筋がヒヤリとする殺気の中で動ける自信はないが。

『何処にいても、千鶴は千鶴がしたいことをすればいい』

 眞里に言われた言葉が脳裏に蘇る。気づけば答えていた。

「私は――ちょっとだけ、参加してみたいです」


 数日後、現実のものになるとは露とも知らず。


***

ゲーム中の描写ばかりであまり楽しくないかもですが。
後々引っ張りたいので六文銭登場です。

うちのバサラ設定は色々吹っ飛んでます。
合い言葉は「だってバサラだから」で何でもありです。
幸村が茶屋に現れるとその店はのれんをおろすほど、大量の甘味を食べます。武田の若き虎。迷惑な人。

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