TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
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『もしも君と』
季節は夏の盛りが通り過ぎ、木々や草花が一年で最後に彩り鮮やかになる時。
この時節になると、『食欲の秋だから』と言って、様々な食事やお菓子を振る舞う有紀だったが、この年は体調を崩し鳳珠や絳攸や秀麗に言い含められ邸で大人しくしていた。
けれどいくら医者に見せろと言われても、「季節の変わり目だから」と言って効かない有紀に絳攸や邸の者達は手を焼いていた。
「で、今日も言いくるめられた訳だ」
「喧しい! 俺が譲歩したんだ! ……だが、そろそろあの方々が乗り出してきそうだからな。いい加減に首を縦に振らせてやる」
数冊の書物を脇に抱え、絳攸は拳を固く握りしめ高らかに宣言していた。
その姿から劉輝はとばっちりを受けないようにといそいそと書簡の山を片付け始める。
近頃の絳攸は怒りっぽいというのが劉輝の思うところであり、恐らく(かなりの確率で)有紀の行動が原因だった。
劉輝も有紀が心配であるが、秀麗や楸瑛や静蘭から夫婦間の問題だから口を挟むなと厳重注意を受けていた為に絳攸にいつも以上に厳しくされても、楸瑛が必要以上に怒鳴られていても『夫婦の問題』なのだからと口をつぐんでいたが。
(余も有紀の心配をしたっていい筈だ。……ついでにちょこっと絳攸の事を考えてくれると嬉しい)
楸瑛と絳攸のやり取りを聞きながら書簡の陰で文をしたためた劉輝は、所用で部屋を通りがかった秀麗に文を託した。
文を手に秀麗はちゃっかりと休みを貰い、平日に有紀を訪ねた。
勿論手放しで迎え入れた有紀と家人達だが、有紀は何かを楽しむかのように相好を崩していた。
そんな有紀の様子に何かを察したのか秀麗は仕方がない、と言わんばかりに溜め息を吐きながら劉輝からの文を手渡した。
「劉輝様が?」
「私からは何も言わないわ。でも有紀姉様なら分かってくれるわよね?」
「そうね……。劉輝様にも心配させてしまっているようだし」
降参します。そう両手をあげると秀麗は深く頷き、廊下で控えていた家人に医者の手配を頼んだ。
秀麗が来た時点でこうなることは予想済みだった家人達は控えていた医者を有紀たちの部屋へと呼び寄せたのだった。
その日、李絳攸は眉をつり上げながら帰路に着いた。
今日こそは自分の言い分が正しいのだと己が妻に理解してもらうために丸め込むための持論も幾らか準備を整えてあり、負ける気など更々なかった。
気合いも万全に帰宅した絳攸を待っていたのは、有紀の満面の笑みと。
「絳攸、男の子と女の子のどちらだと思う?」
**
大変遅くなりました。
青空の下での『もしも君と』より妊娠発覚でした。
恐らく義親三人には既に情報が渡っていて、でも自分から伝える相手は絳攸が最初がいい、という希望を叶えて貰っているから誰も屋敷には来ていないのかと。
[10回]
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※薄桜鬼現代パロディで永倉と義兄妹設定の家族夢になります。
デフォルト名:皆川 恵実(みながわ えみ)
突然ですが、お兄ちゃんが出来ました。
母は女手一つで私を育ててくれた。暮らしは楽ではなかったけれど、たくさん愛情も注いで貰ったし、たくさんの幸せもくれた。たくさんの思い出も。
私ももうすぐ中学を卒業するからお母さんももっと自由に生きて欲しい。卒業後の進路を相談した時にそのことをしっかりきっぱり伝えた。
そんなことがあった春からひとつ季節が移ろった、高校受験を控えた夏休みの直前。
「恵実。お母さん、再婚しようと思うんだ」
母から突然カミングアウトされた。しかも相手の人には私よりも年が上の男の子がいるらしい。
私の返答にドキドキしているらしい母親の仕草に微笑みながら、私は小さく頷いた。
「お母さんが幸せになれる人なら」
「恵実ちゃんも一緒に幸せになれる人よ」
「なら、私は反対しないよ」
ほんわりと嬉しそうな笑みを浮かべた母は、今からとても幸せそうで。苦労を表に出さないで頑張っていた母のその笑顔を浮かばせてくれた『お父さん』にとても会ってみたくなった。
「君が恵実ちゃんかな? はじめまして、永倉です。こちらが息子の新八」
よろしくね、と握手をした『お父さん』はとてもハンサムで、母は面食いだったことが新たに発覚した。物腰も優しくて、とても気を使ってくれる人で何より母と微笑み合う姿がとても優しくて。
そして夏休み前のテストが終わった日に新しい家に引っ越した。
引っ越しといっても私も母も荷物はそこまで多くない。お父さん達もそこまで多くないからすぐに片付いてしまう量だった。
ただ私は学校の教科書とかが入っている段ボールが重たくて二階に運ぶ為に階段の前で気合いをいれていた。
「よし!」
腕捲りをして準備万端な体勢を整えて段ボールを担ぐ。若干重心がぐらついてふらつくけれど耐えられない程ではないからゆっくりと一歩一歩歩いていく。
階段は短くはないけれど長くもない。だから一段ずつゆっくりと登れば踏み外す心配はない、筈。
「あ、おいおい。俺を呼べって言ったろ?」
一段登ろうとした時、簡単に段ボールを持ち上げられた。私には頑張らないと持ち上がらないものが軽々と持ち上げられるのは彼しかいない。
「新八さん。えっとその……」
「遠慮はいらねぇって。これは部屋でいいんだな」
私の答えをきかずに彼は段ボールを持っているとは思えない足取りで階段を登っていく。慌てて着いていくと彼は部屋の中で既に待っていた。早い。
「ここでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
「いいっていいって。また重てぇ荷物があったら遠慮しねぇで言うんだぞ? 俺がちょちょいのちょいで運んでやるからな」
にっと歯を見せて笑う姿は格好いいけど何故か爽やか系ではない。そのことが少し面白い。笑いを堪えながら頷くと満足そうにして彼は部屋を出ていった。
彼は、私のお兄ちゃん、永倉新八は今年の春から高校の先生で働いているらしい。新社会人というやつだ。
お仕事で忙しいと思われるのに、貴重な休日を使わせるのはとても申し訳なかったけど、体力は有り余っているとの自己申告により肉体労働を主に担当するということで合意されている。
一人っ子だったからずっと兄とか姉が羨ましかった。
だから突然出来たお兄ちゃんが凄く嬉しい。しかも格好いいし。
『お兄ちゃん』って呼びたいけど、まだ少し勇気が足りないようで無難に『新八さん』としか呼べていない。
急ぐつもりはないけど、いつか身構えないで自然とお兄ちゃんって呼べるようになりたいな、と思う。
とりあえず、片付けをするにもまだ部屋に収納があまりないからお昼を食べ終えたら皆でお買い物に行く予定。お父さんとお母さんは書類とかの何かでまだ戻ってきていない。
時計を見ると単短針が12時に近くなってた。
お昼ご飯を作らないと、お昼なしになってしまう。だがしかし、台所用品は準備があっただろうか……。
両親に電話で聞けば分かる筈だが、それより先に自分で見た方が早い気もする。分からなければ、兄に聞けばいいだろう。
結論付けて一階に降りると、台所に既に人影があった。
今家のなかにいる人物は自分と兄しかいない。
「新八さん……?」
声をかけると彼は手に巨大なフライパン(中華鍋?)を握り締めて振り返った。
「おう、恵実ちゃん。今から昼飯作るんだけどよ、何か好き嫌いあるか?」
「大丈夫です」
「よし、好き嫌いがないことはいいことだ! ちょっと待ってくれな」
にかっと笑うと手際よく何かを切り始める。
誰かが台所に立つ姿を見るのはとても久しぶりな気がする。
母と二人で住んでいた時は私がいつも食事を作っていたから、何だか新鮮だ。
静かに弾む心に少し浮かれながら何か手伝うことはないかと、台所に回り込む。
置いてあるのは、焼きそばの麺と、お肉と調味料。
……野菜は?
鼻唄混じりにお肉を切っていく背中を見て、くすりと笑ってしまった。
「お兄ちゃん、野菜は?」
「おっとすまねぇ! えっと……ん? い、今恵実ちゃん……?!」
「キャベツと、人参と、んーと……」
中身があまり入っていない冷蔵庫から適当に野菜を出していく。条件反射なのか、素直に受け取っていく兄はとりあえず野菜をざくざく切っていく。
それにしても二人分にしては多くて、四人分にしてはちょっと少ない分量だけど、何人分作るのだろうか。でもお兄ちゃんはたくさん食べそうだからいいのかもしれない。
「っと恵実ちゃん、皿を出してもらっていいかい?」
「はい。二枚でいいですか?」
「おう。頼むな!」
お肉を焼き始める音がして、食欲をそそる臭いもし始めた。
台所から料理を作る音が聞こえるのが、こんなにも心が弾むのだということをはじめて知った。
机の上を食事が出来るように片付けながら準備を整えていく。
鼻唄が聞こえてくる台所を振り返ると私が出したお皿の上につけ分けていた。片方は山盛、もう片方は特大な山盛。もしかしなくても山盛は私の分だろうか。
「恵実ちゃん、これぐらいで足りるか?」
「……それの半分で」
「えっマジか! たくさん食べねぇとでっかくなれねえぞ?」
心底不思議そうにしている姿はとても面白くて、片手に中華鍋で悩んでいくのがなんだか可愛かった。私の分の山盛を自分の分のお皿に乗せているけれど、あんなに食べれるのかと感心してしまう。
「美味しそう!」
「だろう? 俺の腕もなかなかなもんだぜ?」
「ねえ、新八さん」
「ん? やっぱり大盛にするかい?」
「お兄ちゃんって呼んでもいいですか?」
目をぱちぱちと何度も瞬き、そして彼はにかっと満面の笑みを浮かべた。
「おう!」
私、皆川恵実は今日から永倉恵実になります!
***
ツイッターでお世話になっているにあさんとスカイプでお話している最中にお聞きした、薄桜鬼の永倉との義兄妹話です。
引っ越し当日のお話書きたいなぁと思ってたら、なんだかネタが降ってきたので、勝手に設定をお借りしてしまいました。
[1回]
デフォルト名:天河 華織
三度に渡り、異世界を渡り、世界を救う龍神の神子の補助者を務めた。
重要ポジションとは正直思わなかったが、ただ重い荷を背負わされた親友や、同じ世界出身の子の助けになるならばと懸命にこなした。
同時にそれらは、自身と向き合うきっかけにもなり、更に様々な人と知り合いになるきっかけにもなったのだ。
―――……子
澄んだ鈴の音に華織は振り返る。しかし、そこには何もない。
「華織?」
「鈴の音……が」
それだけで望美には通じた。
悩むそぶりもなく、固い表情を浮かべるがすぐさま携帯電話を取り出し、ストラップを一つ外した。ストラップは彼女の手の中で首飾りへと姿を変える。
SPRのメンバーの何人かは驚きの眼差しでそのストラップを見つめるが、望美は華織の首にストラップをかけた。
「白龍の逆鱗。華織が持っていて」
「でも、これは私には使えな」
「いいから! 私には鈴の音は、龍神の声は聞こえなかった。なら、華織はまた喚ばれるかもしれない。大丈夫、これがあれば雑魚は倒せるから!」
「ああ、白龍の神子の力がかなり移っているから……」
――の神…子よ、我……子を……
身体に響くような声が染み入っていく。
同時に懐かしい感覚が指先へと渡っていく。二度と味わいたくないと思っていた浮遊感が華織を襲う。
華織の異変に、将臣や譲はいち早く気付き、そしてその異変が華織のみであることに顔を歪めて駆け寄る。
そんな中で、望美のみが冷静に華織の手を握りしめていた。
「華織さん?!」
「おい、なんで華織だけが喚ばれてるんだ?!」
「華織、華織なら絶対大丈夫だから」
「望美、大丈夫」
『諦めなければ、運命は斬り開いていける。だから決して諦めない』
望美と同時に同じ言葉を残すと、華織の姿はそこから消えた。
感覚が戻り、地に足がついたと認識した華織はゆっくりと瞼を開けた。
着物に身を包んだ人々。
しかし、見覚えがあるようで全くない景色は、どこかで見たことがあるようなものだった。
そして恒例ながら華織の服装は勝手に変化していて、降り立った時代に合わされたものだった。
「……磯の香りがする」
同時に何かよくない気と、嘆き、悲しみ等が澱んでいるようだった。
五行の流れも滞り、龍神の加護はなく、更に四神の加護も感じられない。
――神子
一歩踏み出すと同時に、脳裏に言葉が響く。それは悲鳴のようで、嘆きであった。
その悲鳴は、華織を喚んでいるように感じ、気づけば華織の足は勝手に走り出していた。
足を進めれば進めるほど強くなる、水の気と陰の気。それと同時に華織の身体に感じる繋がりの温かさ。
この世界に降り立った時から分かってはいた。けれど、分かりたくはなかったから目をそらしていたのだ。
――――ワガミコ……
「玄武に呪詛……?!」
空に浮かぶのは、北天の守護を司る四神、玄武。その姿は禍々しく、邪気を孕み神と呼ぶに相応しい姿には見えなかった。
「攘夷を決行する我ら長州藩士の意志の堅さ、とくとその目で見るがいい」
黒髪で長身の男が、不敵な笑みを浮かべて長い腕を持ち上げた。
その先には、外国人二人と、奇妙な出で立ちの三人組。
「行け、玄武!」
黒髪の男が玄武を使役しているようだった。
彼の命令と同時に華織には玄武の命令に抗う意思と、呪詛に従おうとする狂気が伝わってくる。
「さあ、玄武よ! 招かれざる者共に決して消えぬ恐怖を与えてやれ!」
ふざけるな! 叫ぼうと一歩踏み出すと同時に、指差されていた一人の少女が叫んだ。
「やめて! 玄武は人を攻撃したくないって言ってる。それに、この人たちだってさっき誤解と言っていたのにどうして聞き入れないの」
心底不思議である、とでも言いたげな表情に彼女に庇われていた外国人が驚いたような顔をした。
「あなた……」
「どうした、玄武。早く敵を蹴散らせ!」
「Don't you dare!」
少女に庇われていた外国人が前に出て腕をつきだすと、玄武の力が男との間でせめぎあった。
そこまでが華織にとっての限界だった。
「四方にて、北天守護せし聖獣玄武よ。我が声を聞き、我が意思を聞け。我は四神の意をこの身に受けし御統なり」
淀みなく言葉を紡ぐと、慣れ親しんだ感覚が華織の全身を満たし辺りには厳かな空気が漂う。けれど玄武へかけられた呪詛は強く、華織にはただ玄武の力を削ぐことしか敵わなかった。
「玄武よ我の声を聞け。我の意思を聞き届けよ」
突然現れた人間が玄武へと語りかける光景は奇妙なものだった。
力でせめぎあう二人の男は驚愕も露に華織を凝視するが、華織は常人離れした雰囲気を漂わせながらただ真っ直ぐに玄武を見つめていた。
「危ないっ!」
低めの男性声が聞こえるが、華織は構わずに玄武に意識を集中した。
「ーー玄武、戻れ」
力を奮うなとは言わず、華織は迷わずその言葉を選んだ。
五行に龍の力を殆ど感じない状態では玄武を力付くで押さえることは不可能であり、また華織もしたくはない。呪詛を祓うことも難しい。だから、札に押し込める。
目映い光が辺りに飛び散り、暫くの後、玄武の姿はそこから霧散した。
玄武の札の持ち主である男はその瞳に狂気を宿して華織を見た。眼力の鋭さに誰もが後ずさるだろう所を華織は、体に力が入らない状態でいながら口許に笑みを浮かべ彼を見返した。
「四神の力をくだらない人の争いには遣わせない。……なんとしても止める」
「華織さんは?!」
「喚ばれていっちゃった」
「ど、どこに?」
「異世界。華織はまた、四神の神子として呼ばれた」
「四神の神子?」
「でも、なら何で望美や俺達は喚ばれないんだ?」
「白龍が換わっていたみたいだった。私達の知っている白龍ではない龍神の声だったから、きっと白龍の神子も黒龍の神子も、八葉も代替わりしたんだよ」
「ということは」
「俺達の知る白龍は滅してしまったんですね」
「滅して代替わり?」
「私もよく分からないけど、神様も何かのせいで消えてしまうの。でも偉い神様の空席は駄目だから、また新しい神様が生まれるの。全く同じ外見をしていたりするけど全く違う神様がその座に座るって華織と白龍が言っていたよ」
「華織は三代の龍神を見ているからな、俺らよりも色々知ってるみたいだったけどな」
***
遙か×GHの子が遙か5へと行く話。
ゆき達の世界とは時間軸がずれていると楽しい。(私が)
[2回]
デフォルト名:朔夜
雪深く、風は凍てつくように冷たい。冬は深く、空気は澄んでいた。
朔夜は両手に息を吹きかけて体をぎゅっと縮こませて、堅庭から空を見上げた。
薄闇色の空からは、羽毛のような白い雪が降り注がれていた。手のひらに乗せると、儚い六花はじわりと朔夜の手のひらの温もりによって水へと姿を消していった。
する筈のない、雪が降る音が聞こえる。深々と降る雪をじっと見ているだけで、厳かな管弦を聞いているような面持ちになる。
そっと瞼を下ろすと、全ての光景が閉ざされ、感じるのは風や空気の冷たさと、雪の降る音風の吹く音。
そして、一定の速度で響く誰かの足音。
その音は聞きなれたものであり、朔夜にとっては安心をもたらす音。
朔夜の後ろで止まった音に、自然と柔和な笑みが浮かんでいく。
「妹背の君は、俺に探させるのが好きなようだな」
深い慈しみが混じりで安堵が入った声音と共に、ふわりとあたたかな腕が朔夜に回される。
そのまま静かにアシュヴィンの腕に包みこまれ、頭を彼の肩に乗せる形を取られる。
「アシュ」
「見事な雪夜だな。常世で見慣れたものでも、豊葦原で眺めるとまた違う景色に見える」
「ええ。綺麗でしょう?」
「ああ。……見させて差し上げたいものだな」
回された腕の力がぐっと増した。
彼の言葉の中に込められた様々な想いを感じた朔夜は言葉を紡ぐのはやめて、ただ彼の腕に手を乗せて抱え込む。
厚手の布越しに体温を感じることは難しい筈なのに、布越しに彼の体温を感じる気がした。
「二ノ姫に聞いたのだが」
「何を?」
「今宵は大切な者と過ごす日らしい。一体どこの国の風習かは分からんが、よいものだと思ってな」
「アシュヴィン……」
肩に乗せた頭を傾げて夫の顔を見上げようとするが、それより先に彼の手で朔夜は眼を覆われる。いつの間に外したのか、瞼越しに感じるのは彼の素手の皮の堅さと、冷えた体温だった。
「今宵から昼にかけて、共に過ごそうと思った。なのにお前は室にいない。どれだけ方々を探しまわったと思う」
「あら、最初からここに来たのでしょう?」
「……まあ、そうだがな。だが、何故朔夜はここに居たのだ」
「そうね。理由なんて特にはないけれど……。静かな雪を見上げたいと思ったのかしら」
目を覆う手をそっと外すように促すと、しぶしぶといった様子で片手は外された。しかし、朔夜を抱え込む腕はそのままであった。
「雪見には付き合う故、妹背の君には後で俺の我儘を聞いてもらおうか」
「無理難題でなければ、お付き合い致しますよ。背の君」
「フ……。ならば、暫しこのまま雪見でもしようか」
二人見上げた闇空からは白い六花が静かに振り続けていた。
**
この二人のシュチュエーションは、アシュが後ろから抱え込むように抱きかかえているのが好きです。
急ごしらえ感満載のクリスマス夢です。書きあげられたら順次上げて行きますが、タイムリミットは当たり前ながら25日なので、これしかできないかもしれません
[1回]
デフォルト名:藤丸ゆりえ(ふじまる ゆりえ)
幼い頃から見えた世界は、人が見る世界と少し違ったらしい。そのことにゆりえが気付いたのは、演劇好きな母に連れられてとある人物の演劇を見に行った時だった。
何もないはずの空間に広がる光輝く羽根。輝いているのに辺りに影ができる様子はなく、その羽根の輝きは特殊なものなのだと気付くのに時間はかからなかった。
会場を覆い尽くさんばかりの大きな羽根にゆりえは目を奪われたのだ。
あの体験から街中を歩いていると、羽根が生えている人に出会うことはあまりなく、その羽根は一部の人にしか生えていないことを知った。そしてその羽根を見ているのは自分だけなのだということも知った。
画面の中で光輝く羽根を持つ人は、居たり居なかったり。
けれど次第にゆりえは確信する。あの羽根を持つものは『スター』になる素質を持つ人なのだと。
そして羽根にも様々な種類があることも知るのだった。
人や車が多く行き交う中、ゆりえは携帯電話を耳に当てて呼び出し音を聞きながら交差点に立つ巨大画面を眺めていた。
画面の中には青い髪を元気よく跳ねさせながらくるくると踊り跳ねながら楽しそうに歌う少年。
あまりテレビを見ないゆりえだが、彼だけは前から気になっていた。
芸名は『HAYATO』
バラエティーもこなすお茶の間のアイドルだが、歌も歌う。
明るく、そして可愛らしい雰囲気を纏う少年のファンは多い。
ゆりえは、しかし彼とどこか似ている少年を知っていた。
母に似て演劇好きを受け継ぎ、何ヵ月に一度だけ自分のごほうびに見に行っていた舞台に立っていた少年。まだまだ荒削りだったが、彼にはゆりえが惹かれる決定的な理由があった。
まだ羽ばたく前の、光輝く羽が生えていたのだ。
その少年の羽根はとても美しく、これからの成長に期待をする程のものだった。
今画面で踊り歌う少年の羽根と酷似していた。
「でもHAYATOなんて名前だったかなぁ」
『お姉ちゃん?』
「あ、ゆかちん?」
繋がった電話の相手の声に心が弾む。
7つ年下の妹。藤丸ゆかりである。
藤丸一家は父とゆりえと妹のゆかりの三人家族である。
父親は昔から当たり外れの大きな事業に手を出しては成功と失敗を繰り返す人で、豪華な家に住んだり夜逃げをしたりということは何度も経験させてくれる人だった。
ゆりえとゆかりは、そんな父に振り回される母を支えるために出来ることを精一杯したが、疲れきった母はある日家を出ていったまま帰ってこなかった。
そんな愛すべき父を見本に育った二人の姉妹は安定した職業を夢に抱き、将来は公務員! を目標に日々を過ごしていた。
「元気?」
『うん、父さんは今の所は順調だよ』
「よかった。ゆかちんと父さんに会いに行こうと思ってて」
携帯電話にかけて呼び出し音が鳴った時点で、父親の事業がまだ成功していることは分かっていた。しかし、妹の声で大丈夫だと言われると安心するのだ。
『本当? じゃあご馳走作らないとね』
「姉さんはゆかちんの卵焼きが食べたいな」
『はいはい』
くすくすと笑う声が携帯越しに聞こえる。こんな些細なやり取りに幸福を感じる。
『ねえ、お姉ちゃん。仕事ってどんな仕事?』
「大丈夫だよ。父さんみたいに博打じゃないし、安定したお仕事です。事務職みたいなものだしね」
『でも、なんて言ったっけ……なんか変な仕事じゃないよね?』
「シャイニング事務所だよ、一年ずっとアルバイトさせて貰っていたし、社員の人達もいい人ばかりだし。何より頑張ればゆかちんの大学の費用を出してあげられるもの!」
ぐっと拳を握りしめながら信号が変わった交差点に足を進める。電話の向こうで妹が唸っているのが聞こえる。
ゆりえのことが心配だが、やはり心が揺らいでいるようだ。
だが、自分がゆかりの立場だったら心配になる。
元々姉妹揃ってメディアには疎く、芸能人の名前も顔も知らない。
関心があるのは『羽根』が生えているか。
ゆりえしか見ることが出来ないと思っていた羽根は妹のゆかりも見ることが出来るようになっていた。
「社員になったら、ゆかちんにもきちんと説明してあげる。だから今はお姉ちゃんを信じて、としか」
「おい、ゆりえ」
交差点を渡りきり、待ち合わせ場所で通話を続けていれば、携帯電話をあてていない方の耳に低い囁きが聞こえてくる。
慌てて振り返ると、そこにはサングラスと帽子を被った仕事場の大先輩である日向龍也が立っていた。
「あ、日向さん」
『お姉ちゃん?』
「あ、うん。ゆかちん、次の土日には帰るからね! 卵焼き忘れないでね!」
『はいはい。父さんと待ってるからね』
「ゆかちん愛してる!」
『はいはい。待ち合わせしてるんでしょ? また今度ね』
「うん。バイバイ」
通話を終了し、携帯電話を鞄へとしまう。
そのまま龍也へと向き直るとゆっくりと頭を下げる。
「お待たせしてすみませんでした。今日はありがとうございます」
「気にすんな。遅れてきたのはこっちだからな。電話、良かったのか?」
「はい。妹と父の安否確認なので」
「(安否確認?)そ、そうか。なら行くか。荷物は……」
龍也はゆりえの足元に目をやるが、想像していたものが全くなく呆気にとられてゆりえの全身を凝視する。
小さなリュックが一つ、大きめのキャリーバックが一つ。小さな肩掛けが一つ。ゆりえの荷物はそれで全てだった。
「残りは宅配にしたのか?」
「いえ、これで全てです。大荷物ですみません」
羞じらったように笑うゆりえに調子が崩れるのか、龍也は首に手をあてて考えながらも片手を出す。
大きくて優しい手をきょとんと見ていると、通じなかったことにため息を着いた彼は一言「リュック」とだけ加えた。
言われたことの意味に気付いたゆりえは慌てて首と手を全力で振り、必要ないと訴えかける。
しかし、龍也が凄みのある目で見つめ続けると降参したのか渋々リュックを下ろし龍也へと手渡した。
「すみません……」
「気にすんな。それにしても一人暮らししてたのにこんだけか?」
「はい。夜逃げするときは最低限しか持っていけないので、その癖から最小限の荷物しか持たない癖が……」
「夜逃げ?」
「あ」
ゆりえの口から飛び出した言葉に驚きのあまり龍也の目が丸くなる。彼の反応から何気なく口にしてしまったことに気付き、ゆりえは口をてで押さえるが出てしまった言葉はもう戻らない。
互いに互いの言葉を待つが、先にしびれを切らしたのは龍也の方だった。
「悪い。言わなくていい」
「あ、その……なんといいますか」
「とりあえず、どっかで飯食ってから寮に案内する。何食いたい?」
「え? 特に苦手なものは」
「んじゃ俺のオススメな。行くぞ」
いつの間にかキャリーバックまで持たれていたことに気付いたゆりえは慌てて龍也の後を追いかけ、荷物をひとつずつ運ぶことを妥協させられた。
安定した職業ということで公務員を目指していた自分が、一般企業。というには型破りなアイドル事務所ーーシャイニング事務所の社員になるとは思ってもいなかった。
出会いは一年前。
龍也の後を追いかけながら、ゆりえは振り返る。交差点の信号は歩行者が赤で、車道を車が走り抜けていく。足止めされている歩行者は、携帯電話を触るもの、同行者と話す者、広告塔を見上げる者とそれぞれに思うままに行動している。
あの日、気晴らしに足を向けたCDショップでの出会いがゆりえの人生を変えた。
雨上がりのあの日。
***
うたプリ×ペンギン革命って面白いんじゃないかな。と思ったが最後。
アクセル全開で書き留め続け、導入編を書いてみました。龍也さんが贔屓なのは私の趣味です!!
ペンギン革命を知らない人でも、うたプリを知らない人でも楽しんでもらえるように書きたいです。
[8回]